吉行理恵/小島千加子編『湯ぶねに落ちた猫』(2008)


風邪を引いたり、お腹を壊したり、
医者に行くほどでないけれど横になっていないといけない。
そんなとき我が家の常備薬は
サザエさん」「ちびまる子ちゃん」である。
物語は知っているが、繰り返し繰り返し読む。


サザエさん (1)

サザエさん (1)


細かい活字の本も、やる気を促す本も、勉強中の本も、
生体自身が弱っているときはうっとうしい。
下がれ!脳や心に負担をかける本どもよ!
まぁ、そもそも弱っている訳だから
勇ましいことを言えるはずもないが、
頭の中のイメージはそんな感じだ。


湯ぶねに落ちた猫 (ちくま文庫)

湯ぶねに落ちた猫 (ちくま文庫)


この一冊も、弱ったときの寝床の友に加えられそうだ。
吉行理恵/小島千加子編『湯ぶねに落ちた猫』を読む。
2006年に突然逝去した吉行を悼み、
既に現役を退いていた編集者・小島が「猫」を軸に一冊の本を編む。
吉行の詩、エッセイ、小説、手紙をまとめた
ちくま文庫オリジナルである。



吉行の文章をゆっくり味わいながら読んでいくと、
この世で猫と暮らすのは人生のもっとも幸福な側面のひとつに思える。
18年間、6匹の猫と暮らしてきた我が家では、
子ではなく、猫がかすがいだ。



読書にコスト・パフォーマンスを持ち出すのは下品極まりないが、
芥川受賞作「小さな貴婦人」を収めたのは
編集者・小島の、なんときめ細やかな読者サービスだろう。
あちらの世界で愛猫の雲や蜻蛉と暮らす吉行も
その配慮を決して否定はしまい。


あなたの身体や心が風邪を引いたとき、
そっとお勧めしたい一冊。


(文中敬称略)