カステラにかぶりついたからテラちゃん


スクラップブックから
朝日新聞2018年11月1日朝刊
読者投稿欄「ひととき」
食いしん坊テラちゃん
前橋市 高山恵利子 パート 64歳


   「テラちゃんと名付けました」。
   子猫を引き取ってもらったばかりの里親さんから、
   メールが来た。
   子猫が、カステラに興味津々だったからだという。


   「興味津々」は、
   きっと里親さんの思いやりにあふれた言い回しだ。
   カステラを見つけた子猫は、ガツガツと食べたに違いない。
   何しろ我が家に来たときは、
   固焼きせんべいをくわえたまま逃げたほど、
   食い意地の張った猫。
   ぴったりの名前に、思わず笑い転げた。


   9月末の台風一過の朝、庭でガリガリの子猫を見つけた。
   逃げ回ったが、えさを用意してあげると
   瞬く間になくなった。
   我が家で世話を続け、里親探しを始めると、
   すぐに娘の友人が手を挙げてくれた。


   ただ、懸念があった。
   子猫は食べ物への執着が並大抵ではなく、
   目を離すとサンマに食らいつき、鶏肉をかっさらう。
   案の定、食べ物を見て豹変(ひょうへん)する性分は
   すぐ発覚したらしい。
   でも、里親さんはその貪欲(どんよく)ぶりを愛し、
   名前にしてくれた。


   捨て猫を飼おうという方は、
   器量や品種を問わず、
   過去の傷までも受け入れようとする方が多い。
   これまでも里親を探してきたが、
   そのたびに、人の限りない優しさに触れている。



ガリガリだった捨て猫が里親に引き取られ、
人と人をつなぐ。
こんな「ひととき」を読むと、
僕はホッとする。
そんな読者もきっと多いのでは?