The Diverの眼福


昨夜は三軒茶屋のパブリックシアターに
"The Diver"を同居人、副会長と観に行った。
前売り券はすでに完売である。
野田秀樹の新作の脚本、主演、演出も気になるが、
それ以上に主演女優、キャスリン・ハンター(Kathryn Hunter)を
観ておきたかった。


キャスリンの舞台はずいぶん前に
テアトル・ド・コンプリシテが来日公演したときに観て、
ロンドンにはいい役者がいるものだと感心した。
野田の前作"The Bee"は
あいにくベルリンスクールのモジュールとぶつかって
観ることが叶わなかった。



キャスリンの魅力はなんだろう。
クラシックバレエで鍛えた基本を武器に
肉体、音声を自在に使いこなして現代の複雑なテーマを表現する。
身のこなし、セリフ回しに目も耳も心も奪われてしまう。
多重人格の女を演ずるシーンはドキドキした。
野田はキャスリンの才能を自分の領域で引き出すことに成功している。


http://nknk.exblog.jp/d2008-09-28


野田の英語能力が以前より数段上がっていたのにも驚いた。
外国語をリズムとして、音楽として
肉体でとらえることに習熟したのだろう。
これならロンドンで演じても決して恥ずかしくないレベルである。


とは言え、消化不足の気持ちもどこか残った。
田中傳佐衛門らの下座音楽、「源氏物語」のモチーフなどが
ロンドンの観客や演劇界の眼を意識した
日本的アプローチにとどまっていたように僕には思えたのだ。
野田自身の演技も含め、彼らにはエキゾチックに写ったろう。
しかし、


 「能楽の物語性や様式性を現代舞台芸術と対峙させ、
  新たなる舞台芸術の領域を目指す(公演パンフレットより)」


としたこの劇場の芸術監督・野村萬斎野田秀樹の挑戦は
「対峙」の一点において道のり半ばであると思えた。


共演の男優グリン・プリチャード(Glyn Pritchard)も
キャスリンに劣らずよかった。
いい役者はおのれの声、身体を自家薬籠中のものにする。
ロンドン演劇界の厚みを見せつけられるようだ。
いずれにせよ、こうした野田たちチームの挑戦が
貴重であることに変わりない。
惜しみなく拍手を送る。
このレベルの演劇を東京の週末に観られることを幸福に思う。



劇場を出て、うまい中華を食わせてくれるP飯店、
僕たちの隠れ家バーCieloに寄った。


http://cgi38.plala.or.jp/bar_ciel/index.html



10時を回っていたがCieloは盛況で
バーテンダーの稗田さんがてんてこ舞いしていた。
暑くもなく寒くもない秋の夜だった。
入り口前のウィスキー樽のテーブルに
谷中生姜のモスコミュールのカップを置いて
三人分の席が空くのを待っていた。



眼福に恵まれた夜は食事も酒もおいしい。
話が弾み、夜が更ける。