赤めだかと前座春秋


立川談春『赤めだか』を読む。
08年講談社エッセイ賞
本の雑誌』08年上半期ベスト1などを
軒並み受賞した話題作である。既に10万部を突破した。


赤めだか

赤めだか


市川準監督『トキワ荘の青春』を連想する
立川流前座落語家たちの抱腹絶倒の苦闘に
いったん読み出したら目が離せなくなった。
とてもデビュー作とは思えぬ筆さばきだが、
この人は修業時代からなんにつけ誉めすぎると
ロクなことがなさそうだ。
まだまだ書いてほしい人だから、
石原慎太郎芥川賞選評ではないが、
「次回作を読み、作家としての力を評価したい」
と言っておこうか。



この本は前座たちの修行の日々を活写した作品であると同時に、
落語家・立川談志の物語である。
直弟子であり、筆力のある談春がいたからこそ、
他の誰もが書けなかった談志の姿がくっきりと浮かび上がった。
そばに暮らすのはさぞやしんどい師匠だろうが、
しかし、なんと魅力あふれる落語家なんだろう。



自ら茨の道を選び歩みながら、
落語に命を賭ける弟子たちに談志はどこまでも優しい。
そしてとうとう和解こそならなかったが、
小さんと談志の阿吽の呼吸を描いた箇所はこの本の白眉である。
読むうちに、なんだか寄席に出向いて落語を聞きたくなった。



この本の題名、『赤めだか』。
ネタバレするから由来は書かないが、なんとも印象的である。
談春の影に、
落語家になることをあきらめて去って行った年上の弟弟子、
談秋の姿がだぶってくる。
春が残り、秋が去った後、
『赤めだか』はおかしくて、やがて物悲しい思い出に変わる。




談春よ、この本の成功に慢心せず、
落語道をきわめる道すがら、ぜひ書くことも続けてくれ。
あなたは、書くことを司る神さまに愛されている人なんだ。
幸運と才能をムダにしないでほしい。


(文中敬称略)


ブログ仲間のharuharuyさんも
ずいぶん前に『赤めだか』について書いている。
以下にリンクしておきます。


  http://haruharuy.exblog.jp/8640549/


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加藤久仁生監督のアニメーション作品『つみきのいえ』が
本日、第81回アカデミー賞短編アニメーション賞を受賞した。
加藤さん、制作会社ロボットのみなさん、
本当におめでとう。
すばらしいニュースです。



  (加藤監督の書いた『つみきのいえ』のコンテ)


僕は文化庁メディア芸術祭で観ました。
切ないけれどただ甘いだけでなく、
どこか人類の未来に危ういものを感じる
恐ろしさも秘めた作品でした。



  (アニメーション作品『つみきのいえ』より)


加藤さんの受賞スピーチ、
「サンキュー、マイペンシル」がよかったね。
やっぱり鉛筆から奇跡が生まれるんだ。