浮間の銭湯とフィリピン人


『東京お遍路MAP』に掲載されていた
「都内で温泉旅行気分に」の文句に惹かれて
京浜東北線高崎線埼京線を乗り継ぎ、
北区の浮間舟渡(うきまふなど)へ。
初めての土地である。
ところが、めざす北1番「露天風呂ゆの花」
6月7日の営業を最後に休業中の貼り紙。



休業は廃業と違うから
銭湯組合のサイトの「廃業リスト」にも載っておらず
事前に電話連絡でも入れないことには分からない。
銭湯の休業はたいがい廃業を意味する場合が多く、
遍路の身としては実に寂しいことである。



しかし、MAPを見れば
しばらく歩けば浮間にはもう一軒銭湯がある。
気を取り直してウォーキングを再開する。
人気の少ない道をずっと歩いて銭湯の灯りを見つけると
まるで砂漠でオアシスを見つけた旅人の心境になる。
北2番「川嶋湯」である。



自転車で通ってくる常連の兄ちゃんに
僕のスタンプノートを見せてくれと頼まれ、見せてあげる。
あちらこちらの銭湯のスタンプを見てあれこれ質問してくる。
君も地元の銭湯だけじゃなく、ときには足を伸ばして
アウェイの銭湯を楽しんでくれたまえ。


「ここのお湯は柔らかいですよ」
と別れ際に兄ちゃんが教えてくれた。
見知らぬ人間に話しかけてくるくらいだから、
風呂好きなのだろう。
どりゃ、君の自慢の湯を味わってみることにしよう。



ホームでアウェイで450円の身銭を切ることだけが
困難な時代に銭湯経営を続けるみなさんへの応援であり、
銭湯絶滅を防ぐ道なのだ。
朱鷺の絶滅も恐ろしいが、
銭湯の絶滅も僕には同じくらい恐ろしい。
文明が人情の通じる社会を滅ぼす兆候にさえ思えるときがある。
(ちょっと力み過ぎか……)



  (これが『東京銭湯お遍路MAP』
   下線をクリックして銭湯組合のサイトから申し込める。
   スタンプノートが付いて300円。採算度外視であろう)


今宵はよほど休肝日にして帰ろうと思ったが、
さすがに二軒の銭湯を探してよく歩き、風呂にもつかって
すっかりノドが渇いてしまった。
ここまでやってくることもそうはあるまい。
気になる赤提灯の一軒をちょっとだけ覗いてかえろう。
「和倉」という店名にふさわしく
石川名物のつまみをズラリ揃えている。
親父が石川出身なのか。石川の和倉温泉は有名である。



突出しの香り箱。かに風味のかまぼこ。つつましく、おいしい。
イカのちょっこり干し。魚醤・いしりを隠し味に使って焼いたイカ
天然の岩もずく。歯ごたえがギシギシしていてうまい。
生ビール、ハイボールと二杯飲んで、2,000円でお釣りがきた。
例によってサッと引き上げる。
中越しには男一人、女四人のフィリピン人客が
実に楽しそうに大声を上げながら飲んでいる。
(さすがにちょっとやかましい)


店にはなぜかサンミゲール・ビールが置いてあったし、
洗い場の女性もおそらくフィリピン人。
赤羽に近い浮間界隈はフィリピンからの出稼ぎの人たちが
多く住んでいるのだろうかね。


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ネットで調べると「和倉」は今年の6月26日オープン。
どうりで店がこぎれいだと思った。
休業する銭湯あり、開店する居酒屋ありの浮間であるな。