小林信彦『黒澤明という時代』(2009)


海外の友人たちと話していて、
あるとき黒澤明監督とその作品の話になった。
よくよく考えてみればそのとき僕は
黒澤作品は数えるほどしか観ていなかった。
日本人としてこれじゃちょっと恥ずかしいなと思って、
全32作品を一通り観てみた。


ひとりの作家の全作品を観たり読んだり聴いたりすることは、
作品群の骨格・構造を知り、
作家の成長・円熟・衰退を観察することになる。


黒澤明という時代

黒澤明という時代


そんな個人的背景があり、
小林信彦の新作『黒澤明という時代』を興味深く読んだ。
この作家のいい点は伝聞、噂によっては一行も書かず、
自分が見聞きしたことをベースに書いてゆく姿勢である。
メモ魔であり、博覧強記である著者だからこそなし得る技とも言える。


小林は黒澤全作品を同時代の作品として劇場で鑑賞している。
その上でDVDで作品を観直し、作家論としてこの本を書いた。
「黒澤流ヒューマン・アクション」として小林が認めているのは
姿三四郎」(作品01/昭和18年)から
「天国と地獄」(作品22/昭和38年)までである。



黒澤の初期から中期までは時代の空気を吸いながら
人々が映画に期待するエンターテインメントを提供していた。
「世界のクロサワ」と称されジャーナリズムに持ち上げられる頃から
映像は美しくなるが気持ちを揺さぶる映画的醍醐味は減ってゆき、
やがて、作品が枯れてゆくのはなぜだろうと考えていた。
小林の著書は僕の疑問のいくつかに小林なりの視点で答えている。



ちなみに僕の黒澤映画ベストワンは、
羅生門」(作品11)でも「七人の侍」(作品14)でもありません。
椿三十郎」(作品21)です。


読書の秋、映画を愛する諸兄はぜひご一読を。


(文中敬称略)


黒澤明 : THE MASTERWORKS 2 DVD BOXSET

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