「こづち」のカツカレーは皿ふたつ


日がな一日、人の話を聴いたり話したりしていると、
せめて仕事が終わった後くらい、
言葉を惜しみ、黙って湯舟の湯と対話したくなる。
ポコポコ浮かんでは消えてゆく湯玉を眺めていると、
方丈記鴨長明の心境にひたるようである。
(……なんちゃって)



広尾と恵比寿の中間にある渋谷18番・宝来湯
地下にある銭湯は珍しい。
さほど広くはないが清潔であり湯質も悪くない。



湯上がりには恵比寿駅まで歩いて、
以前スタジオに通っていたときにときどき寄っていた
めし処「こづち」の暖簾をくぐる。
ここは男たちに残されたパラダイスである。
腹を減らした男たちがこの恵比寿の聖地で腹をこしらえて
またどこぞに消えてゆく。
「ごはん」じゃなくて「めし」というのが
実体を表現していてなんともいいでしょう。


親父や従業員のみなさんも健在であった。
ご飯、味噌汁、野菜炒め、焼き海苔で820円。
揚げものは好きだが、少々控え気味にしている。



隣りの男性客はカツカレーを頼んだが、
「こづち」は量がたっぷりしていて一皿には盛りきれず、
どうしても二皿になる。
カレーライスとトンカツ(キャベツ付)が別々にやってくるのだ。


男は残さずきれいに平らげ、
千数百円の勘定を支払い去って行った。
親父までその食べっぷりに感心していた。
あんなに食べても決して太っていなかったから
若さゆえの新陳代謝かな。