デジタルノート版・極私的ベスト2009 (1)


<書籍ベスト10>  
            

            ※順位づけはなし。数字は僕が読了した日付。


2.20 E.H.カー/清水幾太郎「歴史とは何か」


歴史とは何か (岩波新書)

歴史とは何か (岩波新書)


識者たちが選んだ岩波新書ベストの一冊。
歴史とは現在から視て
その都度、何度でも組み立てられるものだという考えに啓発された。
歴史とは既に決定した過去の事実であると思い込んでいたのだ。
考えてみれば歴史を眺める視点はいつも現在を生きる人にあるのだから
最初から不変の事実が存在している訳ではないのだ。


2.22 立川談春「赤めだか」


赤めだか

赤めだか


理不尽極まりない芸事の道を
迷いながらも疾走する筆者の筆さばきになにより感心した。
落語家として真に大成するには、
筆がたつことの器用貧乏に悩まされないことだ。
立川談志という大きな背中を見てきたのだから
この本の成功くらいで安住せず今後も頑張ってほしい人だ。


3.1 丸山真男「日本の思想」


日本の思想 (岩波新書)

日本の思想 (岩波新書)


同じく識者が選んだ岩波新書ベストの一冊。
戦争を肯定し推進した思想が
戦後さしたる検証もなく、なかったことにされている。
丸山真男は、日本の思想の中にこそ
かつて戦争を推進した原動力そのものが潜むと喝破する。
近頃のヤワな新書と違って、
古典となった新書は骨があり、時間を使って読む価値がある。


5.21 寺田ヒロオ「暗闇五段」



連載時にリアルタイムで感動した一作。
末尾解説によれば既にこの頃から寺田ヒロオは自分の書きたいものと
読者が求めるもののギャップに悩んでいたことになる。
当時、小学生だった僕はそんなことも知らず、
善意ゆえに逆境に陥る主人公倉見五段に自分を重ねてドキドキしていた。


6.10 村上春樹1Q84 BOOK2」
6.20 村上春樹1Q84 BOOK1」


1Q84 BOOK 1

1Q84 BOOK 1

1Q84 BOOK 2

1Q84 BOOK 2


入手できた順番でBOOK2からBOOK1へと読んだが、
それでも読後感を損なわないのが
村上春樹ストーリーテリングの面白いところだ。
麻原彰晃を思わせる人物にもっとも魅かれたが、
少し突っ込みが不足しているような気がする。
1Q84」ではこの教祖の善人ぶりがたちすぎているようで、
本物の麻原はもっと奇妙な人物だと僕は思うのだ。



6.29 小林信彦「定本日本の喜劇人 喜劇人篇」
7.6 小林信彦「定本日本の喜劇人 エンターテイナー篇」


定本 日本の喜劇人

定本 日本の喜劇人


そのときテレビで騒がれていても
流行が過ぎればあっと言う間に忘れ去られてしまうのが喜劇人。
そのパフォーマンスの記録もほとんど失われてしまうから
喜劇と言うより悲劇と言うしかない。


そんな日本の喜劇人の生態を、
恐るべき記憶と記録によって書きとめたのが
小林信彦の代表作とも言うべき本書。
喜劇人をよいしょするのでなく、適度で冷酷な距離を置き、
その観察のすべてを記録しているところが信用がおける。
日本の喜劇に希有な文化人類学的成果である。


8.30 小林秀雄「モオツァルト・無常という事」


モオツァルト・無常という事 (新潮文庫)

モオツァルト・無常という事 (新潮文庫)


評論家というのは自分で創作もせずに
他人の仕事をあれこれ批評して糊口をしのぐ人である
と認識していた期間が僕には長かった。
小林秀雄の仕事はそうした僕の思い込みをまるで越えた
質と幅のものであった。
むしろ世間の目がおよそ粗雑に見逃す芸術を歴史を一瞬を
小林の目は少しも見逃さず、言葉にして定着するのだった。
百万の無理解者あれど我行かんの心意気はすさまじいものだ。


10.3 猪木武徳「戦後世界経済史ー自由と平等の視点から」
10.19 猪木武徳「戦後世界経済史ー自由と平等の視点から」(再読)


戦後世界経済史―自由と平等の視点から (中公新書)

戦後世界経済史―自由と平等の視点から (中公新書)


近頃のマスコミの官僚叩きにうかつにのっかって
官僚をひとくくりにしてしまうと見逃すものがある。
地道に勉強する官僚が数多くいることは、
霞ヶ関近辺の書店の平積みの品揃えを眺めただけですぐ分かる。
この本もそうした官僚たちの知的欲求に答えた一冊である。


新書という限られたスペースに、
戦後世界の経済のダイナミズムをまとめている。
副題である「自由と平等の視点から」がこの本を理解する鍵である。
民主主義がただただ理想的なものでなく、
人々を孤立させ、人を家庭や友人の世界に閉じ込めるものだ
という筆者の指摘は鋭い。
この本を起点に僕はトクヴィルの著書にも手を伸ばし始めた。


10.24 「もういちど読む山川世界史」


もういちど読む山川世界史

もういちど読む山川世界史


出版社、編集者の企画の勝利。
使い古したと思い込んでいる知識や知恵も
こうして再利用可能になる。
単に高校教科書の焼き直しでなく最新の知見を加えて、
時間のない社会人の栄養になる世界史教科書になっている。
高校のときに暗記を要求された赤文字や脚注を廃したことも
読みやすさにつながっている。
大人は細かな事実をいまさら暗記するより、
大局観をつかむのに役立つ世界史が必要なのだ。


11.23 ディヴィッド・ハルバースタム
   「ザ・コールデスト・ウインタ− 朝鮮戦争(上)」
12.13 ディヴィッド・ハルバースタム
   「ザ・コールデスト・ウインタ− 朝鮮戦争(下)」


ザ・コールデスト・ウインター 朝鮮戦争 上

ザ・コールデスト・ウインター 朝鮮戦争 上

ザ・コールデスト・ウインター 朝鮮戦争 下

ザ・コールデスト・ウインター 朝鮮戦争 下


この本も出版と同時に官僚たちが急いで手に取っていた本。
日本人にも特別な存在であるマッカーサー
いかに自己愛にとらわれた唯我独尊の人物であったかが、
筆者の根気強いインタビューで明らかになってゆく。
いったん英雄となった人間の過ちを正すことがいかに困難か、
このドキュメンタリーはあますことなく伝える。


ハルバースタムの名は知っていても
その著書にはさほどなじみがなかったが、
本書を読了することで俄然他の仕事にも興味が沸いてきた。
ハルバースタム21冊目、最後の著書になった。