中島哲也/松たか子『告白』 (2010)


東京は梅雨が明けたんじゃないかと思えるほどの青空。
気象庁の関東地方梅雨明け宣言までにはあと数日かかるらしい。
中島哲也監督、松たか子主演『告白』を観に新宿に出る。



本屋大賞受賞作、湊かなえの原作を映画化した作品で、
読んでから観るか、観てから読むか、迷っていたのだ。
幼子を教え子に殺された女教師(松たか子)の
教室での告白から始まる物語は
寸分の隙もなくエンディングまで構成されていた。
傑作である。



犯人である中学生ふたりをどこまでも追い詰める主人公は
虚実皮膜の間に生きている。
女優・松たか子の凄味をこれほど感じたのは初めてだ。
彼女の告白のどこまでが真実で、どこからが嘘なのか、
判別することが難しい。それが見る者を引き付ける。


善悪の価値観が揺さぶられ、「正義」とはなにか突き詰められる。
マイケル・サンデル教授の名講義 "Justice(正義)" を連想した。
教授に日本語が理解できたなら
この作品はハーバード大学の教材にも使えただろう。



中島哲也監督はCMディレクター出身。
サッポロ黒ラベル温泉卓球」など傑作が多い。
この映画でもラストのCGの使い方がていねいで、
ハリウッド的な見せ物でなく、物語を構成する視覚要素にとどめている。
監督としての判断能力が高いのだ。


中島監督自身が原作を読んだ後、
登場人物たちの心理をより深く知りたくて映画化を構想した。
自ら手がけた脚本の冴えも見逃せない。
監督の旧作をあらためて観てみたくなったし、
今後の作品も楽しみになった。



映画館を出てから西口「思い出横丁」に行く。
そもそもは「ションベン横丁」の愛称で知られていた区画だ。
その後、何度か火災に遭ったが
いまでもこうして戦後の面影をわずかだが残している。


アジア人観光客らしき男女も多い。
女性従業員も中国人だろうか。国際的エリアである。
小料理屋「まゆきち」にフラリ立ち寄る。
おかみが一手間かけたつまみを作ってくれる店だ。
常連らしきおっさんたちの憩いのカウンター席に
一見のおっさんとして割り込ませてもらう。


余韻のある映画を観た帰りには、
心の熱をさます時間がいくらか必要になる。


告白 (双葉文庫) (双葉文庫 み 21-1)

告白 (双葉文庫) (双葉文庫 み 21-1)