守屋武昌『「普天間」交渉秘録』(2010)


何事でもそうだが一方の主張がどんなに正しそうに見えても、
正反対の主張にも耳を傾け、それから自分の頭で判断するに限る。
守屋武昌『「普天間」交渉秘録』(2010)を読む。
腰巻の惹句が強烈である。


   「引き延ばし」「二枚舌」
    不実なのは誰なのか?

    
守屋の答えは、本書を読み進むうちに分かってくる。


「普天間」交渉秘録

「普天間」交渉秘録


著者は元防衛事務次官
2007年11月28日、
軍需専門商社・山田洋行から便宜供与を受けたとして
収賄の容疑で東京地検特捜部に逮捕。
地裁で懲役2年6ヶ月、追徴金1,250万円の量刑。
高裁も地裁の判決を支持。現在、最高裁の判決を待つ。
(本書p.3「はじめに」より)



おりしも、「普天間」問題が端緒となり、
政権交代して8ヶ月の鳩山総理が辞職。
世間の報道を読む限りでは、
普天間」問題の本質はなかなかつかめない。


そもそも、
米軍/政府与党(自民党)=強者(悪)、沖縄=弱者(善)の公式に
僕たちの考えがしばられているのが前提になっている。
そこに民主党への政権交代があり混乱があったから、
「弱者・沖縄を守りきれなかった鳩山内閣」との見方だけが正当化された。
その見方に本書はノーを突きつける。



本書は在職中の守屋の日記をもとに
在日米軍再編から普天間をめぐる混乱まで
実名入りで詳細に記述している。
読み進むうちに弱者であるはずの沖縄の交渉上手が浮かび上がる。
政治家・官僚の間で巧みに情報をコントロールし、
交渉を優位に運び利権を守る姿が見えてくる。


国家の罠―外務省のラスプーチンと呼ばれて (新潮文庫)

国家の罠―外務省のラスプーチンと呼ばれて (新潮文庫)


佐藤優国家の罠』は外務省を主たる舞台にし、
検察が必ずしも正義の味方ではないことを
僕たちにも分かりやすく伝えてくれた。
本書は防衛省防衛庁から防衛省への昇格をめぐる物語も詳述)を軸に
普天間」をめぐる虚々実々の駆け引きについて
責任ある立場にいた人間の「ひとつの視点」を提供する。



それにしても、
これだけ生々しいドキュメントを
よくこの時期に出版できたものだと感心する。
出版界の低迷が叫ばれる中、
新潮社(出版部/土屋眞哉)はいい仕事をした。
この本を書き発表するには守屋の覚悟も尋常ではなかったろう。
自民党から民主党政権交代したことも、
本書が日の目を見た理由のひとつなのだろうか。


報道量だけ多く、思考の材料が不足する在日米軍基地問題
とりわけいま注目されている「普天間」の過去・現在・未来について、
本書は洞察の機会を与えてくれた。
最高裁が守屋をどう裁くかについても注目していきたい。


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2010年8月27日に最高裁判所への上告を取り下げ懲役2年6月、
追徴金約1250万円の実刑が確定した。9月21日、収監。
Wikipediaより引用。2010年11月14日追記)



(文中敬称略)