『土屋耕一の武玉川(ムタマガワ)』(2010)


コピーライターの先達・土屋耕一さんが
最後に書き残した本『土屋耕一の武玉川(ムタマガワ)』が
私家版として発行された。


奥さまの郁子さん、「土屋耕一の仕事場」の鈴木利枝さん、
アートディレクター中島祥文さんがチームを組み
完成させた一冊だ。
郁子さんがTCC(東京コピーライターズクラブ)に50冊を寄贈。
そのうちの一冊が幸運にも我が家にやってきたのだ。
TCC事務局のみなさん、ありがとう!)



五七五が俳句、川柳なら、武玉川は七七。
この本におさめられた土屋さんの七七を
読むともなく眺めている。
「ああ、視点も言葉の選び方も
 やっぱり土屋さんだなぁ」
と感慨ともつかぬ感情が静かに湧いてくる。


    女子高生がヤボな小都市
    森の異端者 紅葉となる
    常連がいる隅の静けさ
    新札を使う葬式のあと
    背中でドアを閉める落胆


    少女は脚をもてあます夏
    墓地の隣で猫がうるさい
    尻から入る雨の玄関
    女の傘で歩く翌朝
    殺した指で焼香をする


    揃いのゴム長視察団来る
    はじめにフタの飯粒を食う
    昔の夏に逢いにきました
    風が出てきてなにか言う山
    襲う支店を遠くから見る


どうです、味わいがあると思いませんか。
なんだか絵が浮かんでくるようです。


(作品は僕が好きなものを選んで掲載順に五句ずつ並べた)




土屋さんが略歴代わりに書いた「私のこと。」と題する小文は
こう締めくくられている。


    広告で失敗したケースは頭に刻み込まれているが、
    広告でもらった賞は、ほとんど忘れてしまった。
 

    以上



土屋さんの残した武玉川を
寝床で眠りにつく前に眺めていると
なんだか人間の生きる速度を取り戻せそうな気がしてくる。
僕も徒然なるままに書いてみようかな、武玉川の七七。