深まりゆく秋の夜、誰かの物語にふと耳を傾けたくなる。
宮部みゆき『あんじゅう 三島屋変調百物語事続(ことのつづき)』
(2010)を読む。初出は読売新聞(2009.1-2010.1)。
宮部の作品を読むのは久しぶりだ。
- 作者: 宮部みゆき
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2010/07/01
- メディア: ハードカバー
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自らも不幸な物語を背負った主人公おちかは三島屋に預けられ、
ふとしたことから黒白の間で
訪問者の不思議物語を聴く役を引き受けることになる。
この設定がうまい。読者を物語に誘う舞台装置として機能している。
本書におさめられた四作品とも読み応えがあるが、
僕は表題作になった「あんじゅう」が一番好きだった。
隠居した老夫婦と、人が見捨てた屋敷に住むクロスケの交流と別れが
なんとも切ない。不思議なだけでなく、哀れな物語なのだ。
装画・挿絵・装幀を務めた南伸坊が実にいい仕事をしている。
見開きごとに収められた挿絵は
普通なら文章を読む邪魔になるのだろうが、
物語にピタリはまっている。
ほんわり温かさのある語り口に
実にうまく寄り添っている。
本文デザインを担当した山影麻奈との協業の賜物か。
語り手の名手・宮部の百物語。
早くも続編をせがみたくなる。
未読でしたら、読書の秋の一冊にぜひ。
(文中敬称略)