未来を愛おしむ、昭和のお茶の間


作家の中島らも
自分の町内に引っ越してきてくれないかと願っていた「斎藤酒場」。
一度来てみたくて、埼京線に乗って十条にやってきた。
きょうは同居人、副会長が仕事なので、ひとり遠足なのだ。




せっかくここまで足を伸ばしたので、久保の湯に寄る。
昔風の銭湯がこの町にはまだ残っている。
入れ墨のおじさんの向かい側のカランで髪と身体を洗う。
湯上がり。まだ、5時。「斎藤酒場」は4時半開店だ。



硝子戸を開けると、もう八割九割の席が埋まっている。
平日でも土曜日でも関係ないのか、さすがの賑わいだ。
天然木のテーブルが心地よい。
「冷やしビール」の大をもらって、まずは雰囲気につかる。
箸置き代わりの小皿に殻付き落花生三粒付くのが斎藤流もてなし。
一時間ほどの滞在で、さらにお燗4本、春菊胡麻和え、肉豆腐、
カレーコロッケ(2ヶ)、黒酢にんにく漬けをいただき、
しめて1,900円。二千円でお釣りがきちゃった!



勘定が安いのは確かだが、それがこの店の魅力のすべてではない。
「斎藤酒場」の一番の魅力は80年の歴史が醸し出した雰囲気にある。
昭和のお父さんが晩酌したお茶の間がこの地に奇跡的に残っている。
この心地よさは過去を懐かしむ気持ちだけでなく、
未来をも愛おしむ、人間らしさなのではないかと僕は思った。
中島らもがこの酒場をなぜこよなく愛したのか、
僕には充分理解できるように感じた。



(文中敬称略)


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