デジタルノート版・極私的ベスト2010(その2)


書籍以外はベースになる数がさほど多くないので、
まさに僕の趣味が色濃く出る極私的ベストです。ご容赦を。
みなさんのなんらかの参考になるかと思い、
今年は順位をつけてみました。


[映画/動画篇]


1. 中島哲也『告白』(2010)


告白 【DVD特別価格版】 [DVD]

告白 【DVD特別価格版】 [DVD]


CMの密度で映画を創るとたいがい失敗するものだが、
冒頭からラストまで実に緻密に創られた作品である。
音も色も計算され尽くしているし、
そんな計算を観る人間に感じさせないほど物語にのめり込ませてくれる。
主演の松たか子がこんなに怖く見えたのは初めてのことだ。
湊かなえの原作もよかったが、原作に張り合える映画を久々に観た。


2. 細田守サマーウォーズ』(2009)


サマーウォーズ スタンダード・エディション [Blu-ray]

サマーウォーズ スタンダード・エディション [Blu-ray]


昨年見落としていた作品。
僕が主宰するセカクリ(世界クリエイティブ塾)で
ゲストスピーカーKさんが紹介してくれた縁で観ることができた。
インターネットを通じて世界がつながっている様を肌で実感させてくれた。
おばあさんをリーダーに長野県上田市に住む一族が
電脳戦争に挑む設定が素晴らしい。


3. クシシュトフ・キェシロフスキ『デカローグ全10話』
 「ある運命に関する物語」他 (1988-1989)


デカローグ DVD-BOX (5枚組)

デカローグ DVD-BOX (5枚組)


2010年は僕にとって
クシシュトフ・キェシロフスキを再発見する年になった。
正月休みに始まり、連休や夏休みを使って
監督の主だった作品をひとつずつ観ていった。
ポーランド郊外のとある団地を舞台にしたテレビドラマ作品。
狂言回しの男性がどの作品にも無言で顔を出す。
愛や信仰、裏切りといった宗教的テーマを、
どこにでもある日常で表現したことで
誰の人生にも通ずる深みを作品が持った。
このレベルのドラマを企画・放映できる
ポーランドテレビ界のレベルの高さに驚く。


4. クシシュトフ・キェシロフスキふたりのベロニカ」 (1991)
 


主演女優、イレーヌ・ジャコブが素晴らしい。
そして、音楽。映像。編集。
キェシロフスキ監督の単発作品として
僕がもっとも好きな作品である。
まったく異なる土地に暮らすうり二つのベロニカの人生が
現実のある一点で交差する。
そして、二度と交わることはないのだ。


5. ケニー・オルテガMichael Jackson's This Is It』(2009)



これも2009年に見落としていた一本。
マイケルの死によって幻となった最期のツアーの制作プロセスが
とても興味深い。
オルテガ監督の編集はとても音楽的で生理的で、
それ自体が快感である。


5. 佐々木芽生『ハーブとドロシー アートの森の小さな巨人
 (2008/2010日本公開)



同点5位。
さとなおさんのブログ「さなメモ」で一時期連続して紹介されており、
彼自身が公開に力を貸したことを知った。
東京での単館上映で始まった作品。
ニューヨークのアーティストたちを本当に愛する
市井の夫妻の姿に打たれた佐々木監督が自費で制作した。
ハーブとドロシーの生き方に感銘を受けたし、
こうしたアートとの付き合い方があることを改めて教えてもらった。


上映館でたまたま監督の姿を見かけ、一言二言言葉を交わした。
ひとりの思いからこうした作品が生まれ、
その作品をたくさんの人に観てもらえるように
協力する人たちが出てくる現実が素晴らしい。
そのこと自体が現代の奇跡のようだ。


7. クシシュトフ・キェシロフスキ
 『トリコロール/青の愛、白の愛、赤の愛』 (1993-1994)



キェシロフスキ監督最期の作品となった三部作。
いずれも女優が素晴らしい。
監督は女優の起用がとてもうまいのだ。
どの愛も曲がりくねっているようでいてまっすぐである。
タイトルだけ見ると女性向け作品のようだが、そんなことはない。
愛はすべての大人のものである。
しかも、容易に手に入れようとしても手に入らない。


8. ジェームズ・キャメロンアバター



3D映画のほとんどは技術のデモンストレーションのようで、
一回観れば充分という気になる。
しかし、この作品はよくできていた。
対立軸を使った物語構成と、
架空の世界に入り込んでいくための3Dがよくマッチしていた。
こうした作品は膨大な制作費と優れた監督の両方がなくては実現しない。
ハリウッドの底力を見せてくれた。


9. Randy Pausch
  "Last Lecture: Achieving Your Childhood Dreams"



同僚が教えてくれた動画。YouTubeで観た。
癌のため余命いくばくもない教授が最終講義として、
自分が子ども時代の夢をどうやってひとつずつ実現してきたかを話す。
画像で目にする教授は元気そのもので、聴衆の笑いすら誘う。
大人になっても子ども時代の夢を忘れず、
それを実現することが人生最高の幸福であるという格言がある。
Pausch教授の生き方はまさにそのものだ。
最終講義後ほどなく、教授はこの世を去る。
しかし、彼のLast Lectureはインターネット上に永久に残り、
未来の学生たちも追体験できるのだ。


10. Doug Pray "Art & Copy" (2009/2010日本公開)


Art & Copy: Inside Advertising's Creative Revoluti [DVD] [Import]

Art & Copy: Inside Advertising's Creative Revoluti [DVD] [Import]


アメリカで昨年公開。
日本では有楽町マリオン・朝日ホールで開催された
「CM博覧会」の一企画として限定公開された。
60年代以降の広告クリエーティブをリードしてきた
アメリカの広告人たちが次々に登場。
歴史的キャンペーンをどう発想し、どう命を吹き込んだか、
インタビューに答える。
当のアメリカではさほど話題にならなかったが、
広告の未来を切り拓くためには
もう一度過去に学ぶ必要があると僕は思った。


[舞台/展覧会/コンファランス篇]


1. 東京コピーライターズ・ストリートLIVE (vol.3/vol.4)
@TokyoTLC/JZBrat



コピーライターたちが日頃の広告の仕事を離れ、
新作として書き下ろした原稿を役者たちが朗読するライブ。
3分前後の物語に多様な喜怒哀楽が描かれる。
役者たちの息づかいまで聞こえてくる会場は、
演ずる者と耳を傾ける者が共同作業で創作する場となる。


(作品はTokyo Copywriters' Streetで聴くことができます。
 どうぞお楽しみください)



2008年にスタートし、今年は二度の開催となり既に四回目。
ボランティアベースでこうしたライブが実現するのは、
佐々木監督『ハーブとドロシー』のプロジェクトに通ずる。
本当に表現したいもの、伝えたいことを実現する行動力に
敬意を表する。いまの時代にはそうした力がいっそう必要だ。


2. 「ルノワール〜伝統と革新」@新国立美術館



ルノワールが描く女性たちが好きだ。
ふくよかで、華やかで、それでいてどこかエロスを秘めている。
新国立美術館は建築そのものも好きだし、
集めた作品や展示の仕方が素晴らしい。
キュレイターたちがいい仕事をしているのが分かる。


3. 第13回文化庁メディア芸術祭新国立美術館



これも新国立美術館での開催。
毎年、カンヌ広告祭と同じくらい楽しみにしている。
自分で体験できる作品が多いこともこの祭典を特別なものにしている。



文化庁主催。税金の払い甲斐のある企画である。
この企画の業務仕分けはやめていただきたいと
民主党政府に声を大にして言っておきたい。
ここには確かに日本から世界に飛び出し、世界とつながる光がある。


4. イッセー尾形のこれからの生活2010
 @原宿クエストホール



イッセーさんの一人芝居の舞台を観るのは
僕の日常の一部になっている。
ホームグラウンドである原宿クエストホールの時間そのものが、
肩のこりそうな日々の生活を修正してくれるようだ。
今年はすべて異なる演目で三回観に行った。


5. 小松政夫イッセー尾形のびーめん生活2010
 @原宿クエストホール



小松政夫との共演は確か二度目。
一本目のビニエットでは小松の演技にやや不安もあったが、
二本目三本目と進むうちに、二人の呼吸が合ってくる。
もう何度も観られない舞台なんだろうなぁ。また、観たいなぁ。


次点=コマーシャル博覧会〜CMの過去・現在・未来〜
   @有楽町マリオン・朝日ホール


[映画篇]で紹介した「Art & Copy」は
この博覧会の一企画として特別公開された。
日本広告界の巨人、小田桐昭の「ライバルによる広告50年史」を始め、
見応え、聴き応えのあるセッションが目白押しだった。



残念だったのが、チケットは完売していたのに、
どのセッションにも空席が目立ったことだ。
もっと若い世代に見せ聞かせたかった内容だけに
とてももったいないことをした。


[道具/ツール篇]


1. iPad 



予約注文して発売早々に入手。
半年少したったところで一番使っているアプリがVU Radio(無料)。
世界中のラジオ音楽放送が聴け、
クラシックなスピーカーとVUメーターのデザインがなんとも洒落ている。
二番目は電子版の日本経済新聞(有料)と
New York Times(現在は無料。いずれ有料になる予定)。
寝床で寝っ転がって読むのにiPadはちょうどいい。
分単位で更新される電子新聞に慣れてしまうと、
紙の新聞のスピードが物足らなくなってくる。


2. 日本酒専用冷蔵庫(レマコムRCS-100)



日本酒に少々こり始めたのがきっかけで購入。
おかげで今年の猛暑でもデリケートな酒をダメにすることがなかった。
同居人が猫のクスリを入れるのにも重宝しているが、
僕は本当は酒専用を貫きたいのだ。


3. ミニかんすけ



同じく日本酒に興味を持ったことから購入。
錫のチロリを陶器で湯煎。
熱を逃がさぬ構造になっていて、
一合から二合の日本酒を自分の好きな温度で燗につけてくれる。
便利かつ、酒飲みには愉しい小道具。
練馬のメーカー「サンシン」の製品。
こういうきめ細かい道具を作らせたら、
日本のメーカーは世界一だ。かゆいところに手が届く。


[居酒屋/レストラン篇(今年初訪問店のみ)]


1. 斎藤酒場 (十条)



作家・中島らもが自分の町内に引っ越してきてほしい
とまで書いた酒場。
甲斐甲斐しく働くおばちゃんたちも、天然木のテーブルも、
つつましい値段で出すおいしい酒も肴も、すべて好ましい。
この雰囲気を味わいたくて、僕は十条に通う。


せんべろ探偵が行く

せんべろ探偵が行く


2. 富士屋本店 (渋谷)



この店も飲兵衛の先達たちに教わった。
入った瞬間に気に入った。
行くたびに外国人を見かけることも多く、
異国でこうした立ち飲み酒場に通える
自由かつ柔軟な心構えを尊敬する。



ハムキャ別、ハムカツ、湯豆腐、マカロニサラダ、なす味噌。
なんということもないつまみを食べながら飲む酒が
身体と心に沁み渡る。


3. 鈴傳 (四ッ谷)



今年は酒屋が経営する店内飲酒コーナー「角(かく)打ち」に
幾つかお邪魔した。
この店は角打ちの老舗中の老舗。
いい店はお店の人、客、酒、つまみなど全部が影響し合って
独特の時空間を創り出す。
それは、なかなか方程式では表現できないものである。



四ッ谷の細道の突き当たりにあるこの店で過ごすひとときは、
なんとも言えないくつろいだ気持ちになれる。


4. ベルク (新宿)



ベルクははまる。
ビールの旨さにはまる。ハム、ソーセージ、パンの旨さにはまる。
豆のピクルス、ラタトゥイユ、パテの旨さにはまる。
コーヒーにはまる。日替わりの日本酒にはまる。
新宿の店に、新宿の文化の香りが残っていることをとても貴重に思う。



こんな貴重な個人店を、
法の適用範囲を越えて追い立てようとするビルの大家がいることを知った。
さっそく追い立て反対の署名をし、
コンパクト六法全書を購入して借家借地法を勉強する。
この時代、自分の好きな店は、自分で守るのだ。


新宿駅最後の小さなお店ベルク 個人店が生き残るには? (P-Vine BOOks)

新宿駅最後の小さなお店ベルク 個人店が生き残るには? (P-Vine BOOks)

食の職 小さなお店ベルクの発想 (P‐Vine BOOKs)

食の職 小さなお店ベルクの発想 (P‐Vine BOOKs)


5. 武蔵屋 (桜木町



毎週火木金だけ営業する店。看板もなく、暖簾もない。
いつも決まった五品のつまみで桜正宗を三杯だけ飲ませる。
そんな店がもう何十年、お客さんとつながっている。
意気に感じたのか横浜国大の学生たちがおかみさんと一緒に働き、
この店を支え歴史をつなげている。
過去から未来につながる歴史のカウンターで、
僕も一杯飲ませてもらうのだ。


東京飲み歩き手帳

東京飲み歩き手帳


6. 枡久 (京橋)



京橋にある老舗の角打ち。
角打ちは店じまいも早い。この店も9時には終わる。
仕事帰りの会社員らしき男たちに混ざって、
自分で冷蔵庫から飲み物を出し、
並んでいるおつまみを女将のいるカウンターに持っていき精算する。
一日働いて、ほんの少しの時間、この空間で疲れをほぐして帰る。
働く男どものつつましい儀式なのだ。
(ここの角打ちでは女将以外に女性を見かけたことはまだない)


7. 唐木屋のおく (若林)



日本酒研究に熱心なご主人が店の奥に作った角打ち。
しかし、立ち飲みではなく、テーブルや椅子も用意されている。



毎週変わる3種の日本酒飲み比べセットが良心的。
ご主人がなぜこの空間を創りたかったかがよく分かる。
ブログが大変マニアックで、
これを読んでいるとご主人の日本酒への偏愛ぶりが表現されている。


8. 天★(てんせい)(東高円寺


福島の銘酒「奈良萬」の縁でおじゃました。
日本酒に、おつまみに研究熱心なご主人。





にごりの「どPink」に驚かされ、
いぶりがっことチーズ、モッツァレラと塩昆布など
小皿料理の創意工夫がうれしかった。


9. リカーショップ栄屋(喜多見)



散歩の途中で見つけた角打ち。
元ワインメーカーに勤めていたご主人が復活させた。
おばぁちゃんが作った各種梅酒があったり、
猛暑の夏はグラスごとギンギンに冷やしてサービスしてくれる。
ご近所に住む常連のみなさんの憩いの場に、僕もときおりおじゃまする。


●●●


2010年はみなさんにとって
どんな年でしたか?
来年もデジタルノートに時々おいでください。
どうぞ、よいお年を。



(文中敬称略)