池上彰・佐藤優『グローバルサウスの逆襲』(文春新書、2024)

この二人の対談は見逃せない。
木戸銭990円(税込)を払って覗いてみる。
池上彰佐藤優『グローバルサウスの逆襲』(文春新書)を読む。



「はじめに」(池上)から引用する。


  佐藤優氏と対談していると、
  化学反応とでも言うべきでしょうか。
  想定していた話が思わぬ方向に進んでいくことがよくあります。
  本書も、そんな形になりました。


  当初は、イスラエルによるハマスへの攻撃や
  ロシアによるウクライナ侵攻、さらにアメリカ大統領選挙と、
  現下の国際情勢を語る上で欠かせない素材を俎上に載せていたのですが、
  いつしか「グローバルサウス」の話に発展しました。
  (略)


  開発途上国と呼ばれた南の国々は、
  北半球に位置する先進諸国によって占領されたり
  植民地化されたりしてきました。
  それが、どれだけ屈辱的だったことでしょう。
  その途上国が独裁的な指導者によって成長を始めると、
  北半球の国々が余計な口を出してきます。
  曰く「民主主義的であれ」、曰く「自由な言論活動を保障せよ」、
  曰く「国際社会と協調せよ」等々。


  「何を勝手なことを」と、
  途上国の人たちは言うに違いありません。
  「お前たちは我々を植民地にして人権無視。
  抵抗を抑圧して暴利をむさぼってきたではないか。
  それが、いまになって我々にお説教を垂れるとは、
  どういう神経をしているのだ」と。
  (略)


  そんな全体の動きのモデルになっているのが、
  アメリカのドナルド・トランプ前大統領です。
  「アメリカ・ファースト」を主張し、
  国際協調に見向きもしない姿勢は、まさに開発途上国
  グローバルサウスそのものです。
  彼は、まさにアメリカ国内での
  「グローバルサウス」を象徴しています。

                      (pp.3-6)


「おわりに」(佐藤)から引用する。


  池上彰氏との本文中の対談でも述べたが、
  グローバルサウスという概念は奇妙だ。
  グローバルとは国家の壁を越えて、
  ヒト・モノ・カネが自由に動く現象を指す。
  経済的には新自由主義と対応する概念だ。
  従って、グローバルノースという概念は成立する。


  対して、グローバルノースに含まれない
  サウス(南)と呼ばれる地域では、国家主権が基本になる。
  従って、国境を越えて、ヒト・モノ・カネは流れない。
  だから国家と国家の関係、
  すなわちインターナショナルが重要になる。
  グローバルノースに対抗しているのは
  サウスインターナショナルなのである。


  従って、本書のタイトルは
   「サウスインターナショナルの逆襲」
  とするのが概念的には正しいのだ。
  もっとも奇異なタイトルをつけると
  読者に本書が届かなくなるので、
  あえてサウスインターナショナルには固執しなかった。

                       (p.217)


イスラエルハマス攻撃について
池上さんは佐藤さんに対して異論を唱える。


  池上 佐藤さんとはいつも多くの問題で意見が一致しますが、
     今回はややスタンスが異なりますね。
     「天井のない牢獄」と称されるガザを現地取材した際、
     私は人々の悲惨な生活を目にして、
     彼らの絶望感はいかほどのものか、と言葉を失いました。


     ハマスの蛮行は厳しく糾弾されるべきですが、
     その背景にはガザの凄惨な現状がある。
     しかも、パレスチナの一般市民が
     犠牲になっているのを見るのはやりきれません。
     ガザの死者は三万人に達したと報じられています
     (2024年3月初旬時点)。

                        (p.53)


本書の構成は以下の通り。


  はじめに 池上彰

  プロローグ グローバルサウスの逆襲が始まった

  第一章 中東情勢から動向を読み解く

  第二章 アジアの均衡が崩れるとき

  第三章 ロシアと結びつくアフリカ

  第四章 アメリカ大統領選が世界最大のリスク

  エピローグ グローバルサウスは福音か、混沌か

  おわりに 佐藤優

    構成・石井謙一郎(フリーランス編集者/ライター)


    編集: 前島篤志文藝春秋
        西本幸恒(文春新書編集部編集長)
        東郷雄多(文春新書編集部)