村上龍『逃げる中高年、欲望のない若者たち』を読む。
「メンズジョーカー」に連載した
「すべての男は消耗品である。」シリーズ最新刊。
タイトルが挑発的でいいなと思ったら、
腰巻にも「村上龍の挑発エッセイ!」とあった。
「普天間を巡る思考放棄」「善戦すれば負けてもいいのか」など
現代社会の問題から目をそむけず
自分の思考と言葉で立ち向かう村上に何度も共感を覚えた。
この人はこんなにハッキリ物を言う人だったんだな。
- 作者: 村上龍
- 出版社/メーカー: ベストセラーズ
- 発売日: 2010/11/20
- メディア: 単行本
- 購入: 4人 クリック: 148回
- この商品を含むブログ (22件) を見る
若者たちに甘い言葉もかけぬ代わりに、
「夢を持て」などと無責任に励ます大人たちにも容赦ない。
当の大人たちこそ自分の夢を持たず、
沈没しかけた日本の現実から
自分たちだけはまんまと逃げ切ろうとしているではないか。
村上は誤解を恐れず斬り込む。
感情におぼれず現実を直視した言葉づかいに過不足はなく、
さすがプロの作家である。
さて、自分は逃げていないか、
村上の言葉に思わず僕は胸に手を当てた。
ひとつだけ気になったのは、出版元の価格設定。
内容量に比べるとさすがに1,300円は高いなと思った。
短めのエッセイ17篇が載っているだけなのだ。
一本ずつの中身がよかっただけに、
ややデザイン先行気味の本作りには疑問を持った。
文庫になってから読めばよかったかという気もするが、
旬のテーマを扱っているだけにどうせ読むならいま、とも思い直す。
「ニューヨークタイムズ」に寄稿した巻末エッセイ
「21世紀のビートルズ」は読み応えがあった。
09年の総選挙後の日本について村上の洞察が書かれている。
同紙編集者は村上龍が相手でも加筆・修正を何度も要求する。
その粘り強さは日本の新聞ではほとんどないと村上は言う。
日米メディアの底力の差を僕は感じた。
(文中敬称略)