村上龍『逃げる中高年、欲望のない若者たち』(2010)


村上龍『逃げる中高年、欲望のない若者たち』を読む。
「メンズジョーカー」に連載した
「すべての男は消耗品である。」シリーズ最新刊。
タイトルが挑発的でいいなと思ったら、
腰巻にも「村上龍の挑発エッセイ!」とあった。
普天間を巡る思考放棄」「善戦すれば負けてもいいのか」など
現代社会の問題から目をそむけず
自分の思考と言葉で立ち向かう村上に何度も共感を覚えた。
この人はこんなにハッキリ物を言う人だったんだな。


逃げる中高年、欲望のない若者たち

逃げる中高年、欲望のない若者たち


若者たちに甘い言葉もかけぬ代わりに、
「夢を持て」などと無責任に励ます大人たちにも容赦ない。
当の大人たちこそ自分の夢を持たず、
沈没しかけた日本の現実から
自分たちだけはまんまと逃げ切ろうとしているではないか。
村上は誤解を恐れず斬り込む。
感情におぼれず現実を直視した言葉づかいに過不足はなく、
さすがプロの作家である。
さて、自分は逃げていないか、
村上の言葉に思わず僕は胸に手を当てた。



ひとつだけ気になったのは、出版元の価格設定。
内容量に比べるとさすがに1,300円は高いなと思った。
短めのエッセイ17篇が載っているだけなのだ。
一本ずつの中身がよかっただけに、
ややデザイン先行気味の本作りには疑問を持った。
文庫になってから読めばよかったかという気もするが、
旬のテーマを扱っているだけにどうせ読むならいま、とも思い直す。



ニューヨークタイムズ」に寄稿した巻末エッセイ
「21世紀のビートルズ」は読み応えがあった。
09年の総選挙後の日本について村上の洞察が書かれている。
同紙編集者は村上龍が相手でも加筆・修正を何度も要求する。
その粘り強さは日本の新聞ではほとんどないと村上は言う。
日米メディアの底力の差を僕は感じた。


(文中敬称略)