斎藤酒場でゆらり漂う


やたらと打ち合わせの多い一週間であった。
人の話に耳を傾け、人に話しかけ、知恵を絞り合い、
仕事で起きた面倒、これから起きるであろう面倒を
ひとつずつ整理し片付けていく。
まぁ、根気が要る。人疲れ、言葉疲れも人並みにする。
したがって、一週間分の仕事を終えたら、
できうる限り言葉を発することなく、ゆらり漂っていたい。
迷うことなく、十条・斎藤酒場に向かう。



今宵はどこぞで聞こし召したきたらしき五人組と相席。
みんなのお茶の間である斎藤酒場で相席は常識。
気にはしないが、うちひとり、僕の目の前の客が
この店の客には珍しくかなりやかましい。
機関銃のように話し、けたたましく笑う。
はてしなくオクラ納豆をかきまぜ、つばを飛ばす。
果たせるかな、そのうち自分の酒をこぼして
自然木のテーブルにみんな飲ませてしまった。



ほどなく五人組が勘定を済ませて引き上げ、
別の二人組に入れ替わる。
少しは落ち着いて漂えそうな気配が戻ってくる。
付き出しはいつもの殻付き落花生三粒。
うどの酢味噌あえ、子持ち昆布酢を注文して
最後は店の名物、串カツとカレーコロッケのセット、220円。
斎藤酒場は埼玉の酒、清瀧を使い、
燗も常温も一杯170円で飲ませる。


清瀧酒造は日本で唯一、
信販売専門で酒を直販する蔵元である。
斎藤酒場は元々は酒屋で始まった店だから、
うまい酒を安く客に飲ませるための
独自の仕入れルートを確立しているに違いない。



昼間は20℃近くまで気温が上がり、
いよいよ春の到来を感じさせる日。
常温で飲む酒がなんともうまい。