細切れの時間を再生する


海外に旅する回数が増えるということは
東京の時間が細切れになることだ。
時間が細切れになったからと言って
自分まで細切れになりたくはないよね。



イッセー尾形のこれからの生活2011 in 夏のクエスト」を
表参道まで観に行く。7本とも新作。


   1. 自転車に乗れなかった女
   2. 50年間務めた工員
   3. リゾートホテルのボーイ
   4. ヨットの社長
   5. 男たちの話をクラブで聴く女
   6. 天草五郎(続き)
   7. 唄うサングラスの女


   (注. タイトルは小生が備忘録として付けたもの。
    公式タイトルではない)



一人芝居は重労働である。
今年還暦を迎えるイッセーさんにとっても
それを見守る観客にとっても挑戦である。
少し枯れた印象の演目はなかなか味わい深いが、
「若い子を演じるイッセーさんも観たかったね」
ある女性客は帰りぎわに友人と話していた。
なるほどね。そういう見方もあるか。



芝居がはねて十条に向かう。
「斉藤酒場」があるのだ。
夏休みの始まりは、ここで過ごしてみたい。
ひとまず十條湯で地元のおじさんたちに紛れて汗を流す。
細切れになった時間が湯舟の中で再びカタチになっていく。



湯上がり。十条商店街をそぞろ歩いて斉藤酒場に戻る。
けやきの自然木のテーブルが心地よい。
清酒170円、花らっきょう150円。
斉藤で一番安いお品書きはこの二品だ。
酒の質もしっかりしているし、つまみには必ずひと手間かけている。
これでどうやって儲けているのか心配になるくらいだ。
やってきた客はみんな幸福そうに飲みかつ食べている。
市井の、たいがいの困難には負けない、この幸福感の共有こそ
何度も斉藤に足を運びたくなる秘密である、と僕は思う。



斉藤酒場、昭和3年創業。僕の父が生まれた年である。
その年から日本人はどれほど多くの困難に出会い、
切り抜けてきたのか。あるいは、挫折してきたのか。
昭和史をひもとけば平穏な気持ちばかりではいられなくなる。


時間の想像を、ひとり静かに味わう、夏休み初日の宵。