川上弘美『センセイの鞄』(2001/2007新潮文庫)


川上弘美センセイの鞄』を読む。
<狐>の書評を読んでいたら手に取ってみたくなった。
速読でも多読でもなく、
<狐>が薦める遅読を意識してページを繰った。
遅読は味読(僕はこの言葉を知らなかった)でもある。


センセイの鞄 (新潮文庫)

センセイの鞄 (新潮文庫)


センセイとツキコさんの出会いからの淡々とした交友を
サトルさんの居酒屋をベースキャンプに描いていく。
平易でありながらリズム感のよい文章である。
できればセンセイとツキコさんの距離が縮まりすぎず
読者としてはぐらかされたまま終わってほしいなぁと感じていた。
最後の二章「公園で」「センセイの鞄」は
二人が恋など意識しませんように、とハラハラ読んでいた。



僕が一番好きなのは「干潟ー夢」。
いつまで飲んでも飲み干せないカップ酒を飲みながら
二人が佇む場所はいったいどこなんだろうと愉しんだ。
副題は「ー夢」を外してただ「干潟」としてほしかったな。
夢であると作者から決めつけられてしまうより、
夢か現か幻かと漂っている方が読後感が深くなると僕は思う。



2001年に発表され谷崎潤一郎賞(第37回)を受賞して11年。
メディアの喧噪の中でなく、
いまごろひっそりと静寂に包まれながら遅読することが
僕には敵っていた。


増補 遅読のすすめ (ちくま文庫)

増補 遅読のすすめ (ちくま文庫)

水曜日は狐の書評 ―日刊ゲンダイ匿名コラム (ちくま文庫)

水曜日は狐の書評 ―日刊ゲンダイ匿名コラム (ちくま文庫)


2001年谷崎潤一郎賞審査員は以下の6名。


   池澤夏樹
   井上ひさし
   河野多恵子
   筒井康隆
   日野啓三
   丸谷才一


(文中敬称略)