池内恵『イスラーム国の衝撃』(2015)


これはなんと充実した内容の新書だろう。
ブームに便乗した書籍とは一線を画する。
池内恵イスラーム国の衝撃』を読む。


イスラーム国の衝撃 (文春新書)

イスラーム国の衝撃 (文春新書)


池内が長年取り組んできた二つの分野が
2014年6月以降の「イスラーム国」台頭により
融合することになったと「むすびに」(p.226)にある。


(1) イスラーム政治思想史、
(2) 中東の比較政治学、国際関係論


である。


2003年アメリカおよび同盟国が
イラクフセイン政権を打倒し起きたその後の混乱。
2011年以降の「アラブの春」による中東地域の変動。
その混乱、変動から「イスラーム国」が
領域実効支配の国家を形成した歴史の皮肉。
そうした中東現代史が229頁の本文、
9頁に渡る参考文献で明らかにされる。



読解の視点は池内独自のものであるにせよ、
基礎資料は英語圏インターネットの共有資産である。
膨大な知の空間に多忙なビジネスパーソンを道案内し
なおかつ時間と労力を節約してくれるのがこの小著である。


著者の提案を受け入れ緊急出版を実現したのが
文藝春秋・飯窪成幸、西泰志。
日本の読者のためにタイムリーな英断であった。


(文中敬称略)