P.F.ドラッカー/上田惇生訳『ドラッカー わが軌跡』(2006)



マネジメント理論の父、とは知っていたが、
少年時代からこれほど人間観察に長けた人とは知らなかった。
P.F.ドラッカードラッカー わが軌跡』(上田惇生訳)を読む。
副題は「知の巨人の秘められた交流」。
本書の内容は英語原題が的確かつ簡潔に示している。
"Adventures of A Bystander(ある傍観者の冒険)"。


ドラッカー わが軌跡

ドラッカー わが軌跡


第一次世界大戦第二次世界大戦の間に
ドラッカーがヨーロッパ、アメリカで出会った印象深い人たちを
15章に渡って紹介する。
ドラッカー自身が「新版への序文」でこう書いている。


  本書は、私の著作のうち最も重要なものではないかもしれない。
  しかし、最も楽しく書いたものであることは確かである。


  (本書p.5より引用)


彼の言葉に偽りはなかった。
筆者が楽しんだだけでなく、
多くのドラッカーファンが「一番面白い本」と言っている。
僕も同感だ。
なぜか。
それは観察された人間ひとりひとりが
みなヘンテコで、有能で、魅力的だからだ。
あの時代のヨーロッパ、アメリカに
こんな人たちが暮らしていたんだと想像するだけで楽しい。



ドラッカーの観察は出会った他人だけでなく
自分にも及ぶ。
例えば、マーシャル・マクルーハンを取り上げた13章に
こんな記述がある。


  フラーやマクルーハンのような(モノマニアックな=引用者注)人たちは、
  一つの使命を遂行する。
  私のような者は多くのことに関心を持つ。
  しかし、何か物ごとが成されるとき、
  それを成すのは、常に、単一の使命を持つモノマニアックである。


  (同p.279)


グーテンベルクの銀河系―活字人間の形成

グーテンベルクの銀河系―活字人間の形成

メディア論―人間の拡張の諸相

メディア論―人間の拡張の諸相


本書が読みやすいのは
上田惇生の新訳にも因る。
ドラッカーが信頼するだけのことはある。
最後に索引があれば、
ドラッカーが文中で紹介した人物、著作などを
さらに探索するのに助かる。
改訂版を出す機会があれば、
上田、ダイヤモンド社編集担当に望みたい。


Adventures of a Bystander

Adventures of a Bystander


wikipedia:en:Peter Drucker


(文中敬称略)