岡崎次郎『マルクスに凭れて六十年 自嘲生涯記』(1983)


破天荒な生涯とも言えるが憎めない。
自分のそばにいたら付き合うのは結構骨が折れるだろう。
マルクス資本論」を生涯で三度翻訳した男、
岡崎次郎の伝記を読む。
題して『マルクスに凭(もた)れて六十年 自嘲生涯記』。


マルクスに凭れて六十年―自嘲生涯記 (1983年)

マルクスに凭れて六十年―自嘲生涯記 (1983年)


    この本は法政大学出版局から
    発行されることになっていた。
    再校の段階まできてから出版局は
    法政大学並びにその教職員や学生を侮辱する文句を
    書き直せと言ってきた。
    私は侮辱しているとは思わなかったので
    それに応じなかった。
    話は物別れになり、出版作業は中止された。


    (本書「序」p.3)


岡崎の旧友・本吉久夫が
青土社から出版できるように奔走した。
その結果が本書である。


満州に渡り満鉄調査部でぶらぶらしていた時代の話。
資本論」やマルクス関連図書翻訳で
一億五千万円の印税を稼いだが一円残らず使ってしまった話。
向坂逸郎に依頼され共訳で出版されるはずだった岩波版「資本論」で
岡崎の貢献は下訳扱いにされ分配も減らされた話。
向坂との愛憎半ばの関係は本書の読みどころのひとつだ。
プロレタリアートの独裁」「暴力革命」には
死ぬまで固執すると宣言する話。


資本論 (1) (国民文庫 (25))

資本論 (1) (国民文庫 (25))


べらんめぇで講談風の語り口は
およそ型にはまったアカデミアの世界から遠い。
岡崎自身も九州大学、法政大学などで務めた教授職は
食べるためとはいえ本意でなかったと打ち明けている。
本書を読んで僕は岡崎の人柄を知り、
岡崎が凭れた人間マルクスにますます興味を引かれた。
岡崎三度目の「資本論」翻訳、大月書店版国民文庫全9冊も
古書サイトで見つけ購入した。
資本論」の勉強はこれからも続けていく。


岡崎は80歳を迎える年に行方不明になった。
長年連れ添った夫人と死出の旅に出たようだ。
クレジットカードの使用記録は残っているが、
二人の遺体等は見つかっていない。
(以上、wikipedia記事による)
本書は軽快な語り口ではあるが、
岡崎渾身の遺著でもあった。


本書は絶版で古書市場では15,000円以上する。
僕は京橋図書館で見つけて借りてきた。
どこかの出版社が文庫本にしてくれるといいのだが、
どうだろう?
今度はどうですか、
法政大学出版局のみなさん?


wikipedia:岡崎次郎


(文中敬称略)