井上ひさし『青葉繁れる』(1973、文藝春秋)


青春小説、ビルドゥングスロマンが読みたくて手にしてみた。
井上ひさしの初期長編『青葉繁れる』を読む。
仙台を舞台に一高生四人を中心に物語が回る。
格別な事件が起きる訳でもない。
後期の井上作品とは違って、
細部があっさりしている印象もある。


青葉繁れる (1973年)

青葉繁れる (1973年)


最初の50頁をゆっくり読んでいくと
自然に物語に入っていき、
格別な事件が起こらぬ小世界がどこか懐かしい。
ホッとする。


四人の憧れ(可愛い女子ならすべてよいのがこの四人!)、
二女高演劇部、モナリザの微笑の若山ひろ子が
物語から唐突から消えたと思っていたら、
ラストシーンで意外なカタチで再登場した。


これから読む人のためにあえて引用はしないが、
この作品で僕が一番気に入った箇所だった。
その後の井上作品の、より密度の濃い文章、物語りを予感させた。
若書きを読む愉しみはこんなところにもある。


新装版 青葉繁れる (文春文庫)

新装版 青葉繁れる (文春文庫)


(文中敬称略)