柚木麻子『伊藤くん A to E』(幻冬舎、2013)


千葉の実家がお金持ちで、
色白でインテリ風だから女の子にもそこそこもてて
脚本家になりたいと周囲に言うくせに、
書くこともしないで他人の批評ばかり。
自己愛ばかりが肥大している伊藤くん。
なんだか伊藤くん、いやなヤツだなぁ。


待てよ、自分の中にも伊藤くん、いないかな。
いるような気もしてきたなぁ。
ますますイヤな気持ちになってくるなぁ。
柚木麻子『伊藤くん A to E』(幻冬舎、2013)を読む。


伊藤くん A to E

伊藤くん A to E


短編5連作。
島原智美(しまはら ともみ)の「伊藤くん A」。
野瀬修子(のせ しゅうこ)の「伊藤くん B」。
相田聡子(あいだ さとこ)の「伊藤くん C」。
神保美希(じんぼ みき)の「伊藤くん D」。
矢崎莉桜(やざき りお)の「伊藤くん E」。


5人の女性から見た伊藤くんの魅力と欠点が描かれると同時に
女性たちそれぞれが関わり合っていく構成。
伊藤くんと対比される女性たちも決して理想像で描かれてはいない。
打算。裏切り。嫉妬。思い込み。意地悪。
およそ僕たち人間が持つ負の部分を抱えて、毎日を生きている。


柚木作品は文章がいいのが特徴だ。
人間関係に入り込んだと思うと、
すかさず情景描写を入れて、感情に溺れすぎない。
カメラがアップからロングに引く感じかな。


  「真後ろのベンツが、
  非難するようにクラクションを二回鳴らした。」(p.96)


  「先端が霧に隠れているdocomoタワーが近づいてくる。
  紙くずだらけの職安通りを横切った時、
  やっと初めてホスト風の男の子とすれ違った」(p.122)


物語の最後に少しだけ光明を差し込ませて、おしまい。
必要以上に書き過ぎない。
柚木作品を三作読んだ。
もっともっと読みたいな。


ナイルパーチの女子会 (文春文庫)

ナイルパーチの女子会 (文春文庫)

終点のあの子 (文春文庫)

終点のあの子 (文春文庫)


「ホンシェルジュ」によると、
白柚木、黒柚木、灰色柚木の作品があるらしい。
分類が面白いね。