忘れてくれて ありがとう(久保純子)


スクラップブックから
朝日新聞2018年5月11日朝刊
読者投稿欄「ひととき」 忘れてくれてありがとう
山口県柳井市 久保純子(パート 64歳)



   今年95歳になる父は、
   庭に小さな菜園を作って野菜を育てている。
   (略)


   ところが困ったことに、
   野菜以外の植物には全く興味を示さない。
   (略)


   元気といっても95歳。
   花や木を切ってはいけないと言っても、
   すぐに忘れてしまう。


   剪定(せんてい)バサミを隠したら、
   ちゃっかり新しいのを買い、
   今度はブルーベリーの花芽を切ってしまった。


   我慢にも限界がある。
   いけないと思いつつ、
   とうとう父を激しく叱責(しっせき)してしまった。
   (略)


   父を叱ったことで心を痛めて眠れない夜が明けると、
   庭からチョキチョキと音がする。
   今度は何を切っているのやら。
   叱られたことも忘れたんだね。
   ありがとう、お父さん。


読者投稿欄「ひととき」。
どんな編集者(たち)が担当しているのだろう。
採用原稿を読者に理解しやすいようにリライトし
字数におさめるにはプロの技術が必要だ。
印刷され世に出るときは
投稿者の伝えたい内容だけが浮かび、
自分はあくまで黒子に徹する。


「忘れてくれて ありがとう」。
久保さんの投稿にこのタイトルを付けるのは
プロの仕事だ。