今週の本棚 /佐藤優 <2023 この3冊>

クリッピングから
毎日新聞2023年12月23日朝刊
「今週の本棚/2023 この3冊」
佐藤優(作家、元外務省主任分析官)


  ① 街とその不確かな壁 
    村上春樹著(新潮社・2970円)



(評者が神学で読み解いた『街とその不確かな壁』。新刊)



  ② 精神の生態学へ 上・中・下
    グレゴリー・ベイトソン著、佐藤良明訳
    (岩波文庫・1155〜1276円)



(旧版単行本)


③ 八色ヨハネ先生
  三宅威仁著(文芸社・1540円)



  ①は、円熟した作家のライフワーク。
  <一人の作家が一生のうちに
  真摯(しんし)に語ることができる物語は数が限られている。
  我々はその限られた数のモチーフを、
  手を変え品を変え様々な形に書き換えていくだけなのだ>
  という村上春樹氏の認識に全面的共感を覚える。


  ②は、人間の意識を解明しようとした傑作。
  鍵を握るのが類比(アナロジー)的思考だ。
  <文法と植物構造の間のアナロジー
  なにか本質的なものではないだろうか?>
  というベイトソン氏の指摘に衝撃を受けた。


  ③は現役の同志社大学神学部教授による小説。
  <全くのゼロから何かを創り出すよりも、
  壊れたものを修復することの方が簡単でしょうね>
  という八色先生の発言は伝統的神学に対する挑戦だ。