秋刀魚の味、コロッケの味

小津安二郎の「秋刀魚の味」「東京物語」を続けて観た。
T塾長のストーリーテリング講座がきっかけだ。
こうした名作はもちろん存在は知ってはいるのだけれど
なにかきっかけがないと案外あらためて観る機会を作れない。


秋刀魚の味 [DVD]

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二作とも淡々としたストーリーだが、
生理にすっと入ってくる。
日本人はこんな言葉づかいをしていたんだなぁ、
と感慨深い。


東京物語 [DVD] COS-024

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書けばキリがないが、
例えば「東京物語」で
主人公の長女(杉村春子)が打算的でもあるし、
かと言って家族の情愛がないわけでもないあたりの
過不足ない描写がみごとだ。
自分の胸に手を当てても、
そんなものかもしれないと思ってしまう。


きれいごとの物語ではないし、
かと言って善悪の線をハッキリさせた説教臭さもない。
小津が映画監督である以前に日本人であり、
日本人監督でしか撮れなかった映画であることが
僕にも感じとれた。
文化は作品の根っことなり、
僕たちの目に見えない土中で作品に養分を供給し続けている。



週末の晩、熱燗をつけ、
ハムチーズフライ(126円)やコロッケ(99円)をつまみながら
名作の世界に耽溺できるのが有難い。
堀田牛肉店は我が家の界隈では
こうした総菜がもっともおいしいと評判の店である。



揚げるそばからご覧のように行列ができ、
日暮れまでにはたいがい売り切れてしまう。
高井戸駅前市場に本店を持ち、
もう40年以上も庶民の暮らしに根を張っている店である。
小津映画のおつまみにはなんともふさわしい一品だろう。



静かな時間が取り戻せるなら
大不況もまんざら悪いことばかりではない。
変化を求めるときは、
変化しないもの、変化させてはいけないものにも
同時に目を向けるべきだろう。
時の試練を経て伝えられてきた古典、名作は
混迷の時代の私たちの伴走者であるのだ。