馬の耳画伯の天職

年賀状のイラストレーションを
元大家の息子、自称「馬の耳画伯」に毎年依頼する。
彼が学校に通っている時分に才能を発掘し、
以来お願いすることに決めている。



報酬は「酒付きメシ」と呼ぶもので、
町内の居酒屋、食事の店ならどこを選んでもよく、
酒飲み放題、つまみ・食事食べ放題というものである。
今宵は比較的新しく開店した、
マンション一階にある居酒屋Uに決まった。
母娘で経営していて、入り口で靴を脱いで上がる。
〆鯖が名物の店である。



  (夕食前に地元M湯の土曜名物・玉露カテキン湯へ。
   全身が急須の中につかっている気分になる)


馬の耳画伯は渋谷にある中高一貫教育の私立校で
国語と漢文を教えている。
自分はできないが、生徒に乞われて野球部の顧問を引き受けている。
彼とご飯をともにするとき、いまの中学生・高校生の生態を
先生の視点から教えてもらうのが楽しみなのだ。



突然登校拒否になる子どももいれば、
年一度の旅行で先生たちに演し物を見せることに
人一倍燃える優等生もいる。
画伯は先生が天職らしく、子どもたちと学び遊び、
日々をともに暮らし互いに成長することを無上の喜びとしている。
同僚の先生たちとのチームワークもよく、
話を聴いているだけでも
なかなか雰囲気のいい学校であることが想像できる。



  (居酒屋U自慢の麦焼酎「独奏会(リサイタル)」。
   ネーミングはどうかと思うが、味がよい。
   入手困難な酒であるとおかみはのたまう)


「いまどきの子どもは」「いまどきの先生は」
と十把ひとからげにする意見を僕は信じない。
人間は個別に付き合ってみることに難しさもあれば、味もある。
とりわけ教育とはそのようなコミュニケーションの場であってほしいのだ。



画伯はこの夜、大変よく召し上がっておられた。
人に教えることはたぶん腹がへることなのだ。
この夜のUのお品書きでは、僕は「あじなめろう」が一番うまかった。
レシピは簡単だが、それだけに素材の鮮度が問われる。
漁師が好んでつくる料理だ。


  wikipedia:なめろう