日本文学、二千年の景色


小西甚一『日本文学史』(1953刊/1993復刊)を読む。
東京教育大学文学部で小西が受け持った
1952-53年の講義ノートを基に書かれた本である。
大学での講義ノートから生まれた著作として
『発生から現代まで 俳句の世界』の姉妹作とも位置づけられる。


日本文学史 (講談社学術文庫)

日本文学史 (講談社学術文庫)


文庫本240ページに日本文学二千年の歴史を要約した野心作。
事実や年号だけを羅列した文学史とは一線を画する。
発表のときは黙殺されたに等しいが、
ドナルド・キーンが激賞したことから
「幻の名著」として名高い著作となった。
講談社学術文庫が17年前に40年ぶりに復刊したのだ。


面白い。とにかく面白い。
古代から中世第一期、第二期、第三期まで
これほど簡潔に、かつ大胆な文学史が書かれていたことを
僕は少しも知らなかった。



  (昨年3月閉館した都立日比谷図書館
   来年7月、千代田区立図書館としてリニューアル・オープン)


そもそも、その学問の鳥瞰図を的確に書ける学者は世界にも数少ない。
学者のほとんどは専門領域と称する蛸壺で
一生を過ごすことになるからだ。


小西はキーンの強力な推薦により、
1957-58年の18ヶ月間、スタンフォード大学客員教授に迎えられる。
そこで「本文の表現に密着した分析技法」に目を開かれ、
後の大作『日本文藝史』につながる道が見えてくる。


日本文藝史 (1)

日本文藝史 (1)


アメリカでの研究生活以前に書かれた小西の『日本文学史』は
日本文学二千年の景色を読者にクッキリと提示している。
小さな本でありながら、
緻密で精確なスケッチはこの時点で既に完成していたのだ。
そのことを京都から東京に向かう列車の中で
偶然この書を手にしたキーンはいち早く見抜いていた。



著者が認めるように「近代」については、
かけらを描写するにとどまっていることはやむを得まい。
近代は評価が定まっていない混沌とした姿のままだからだ。



小西のライフワーク『日本文藝史』、
昨年弟子たちの手でようやく刊行にこぎつけた『日本文学原論』。
小西甚一が残してくれた広大な山脈をいずれ探索してみたい。
二千年の景色はこの小冊子『日本文学史』によって
半世紀以上前にひらけていたのだ。


wikipedia:小西甚一
wikipedia:en:Donald Keene


(文中敬称略)