藪中三十二『国家の命運』(2010)


官僚が在任中に著書を出版するケースは少ない。
官僚は黒衣として働くのが基本であり、
守秘義務にも当然しばられる訳だから
自分の考えを直接世に問う機会は限られる。



   (到来物のロイヤルサルート21年古酒を
    デキャンティング。香りが少し開いてくる)


それだけに退任した官僚の書いた本には
読む価値のあるものがときおりある。
退任ではないが起訴休職中の佐藤優の一連の著書、
守屋武昌『「普天間」交渉秘録』(2010)も面白かった。
官僚たちの仕事のポジティブな部分を知ることができるのだ。
一部のメディアや政治家の言うように
「官僚=悪」と決めつけて思考停止する訳にはいかない。
(守屋は9月21日、最高裁への上告を取り下げ収監。懲役2年6ヶ月)。



国家の命運 (新潮新書)

国家の命運 (新潮新書)


藪中三十二『国家の命運』を読む。
小著ながらなかなか味わいがあった。
藪中は現役時代、『文藝春秋』連載「霞ヶ関コンフィデンシャル」の
常連だったから名前を見知っていた。
アメリカや北朝鮮との交渉の経験などから、
プレゼンテーションにおける英語やロジックの大切さ、
51:49で譲るところ、譲らないところを線引きする工夫など
本書で具体的な助言をしている。



藪中が実践してきた国際的場面での交渉術は
僕たちの日々の仕事の大小さまざまな交渉にもおおいに役立つ。
元官僚としての藪中の矜持は
日本の近未来に対する危機感に支えられている。
日本がこのまま沈んでなるものかとの思いだ。



さて、翻って、自分はどうだろうと胸に手を当てる。
日本という国にも、日本人であることにも誇りを持っているが、
それをなにかのカタチで表現しているか。
自分にできることはあるか。
国家主義にも、民族主義にも踊らされる気はさらさらないが、
誇りと矜持について考える。
それは会社主義ともどうやら違うようなのだ。


(文中敬称略)