迫川尚子『食の職 小さなお店ベルクの発想』(2010)


迫川尚子『食の職 小さなお店ベルクの発想』を読む。
新宿東口のビヤ&カフェ、ベルク本の第二弾。
迫川はフォトグラファーであり、ベルクの副店長である。


食の職 小さなお店ベルクの発想 (P‐Vine BOOKs)

食の職 小さなお店ベルクの発想 (P‐Vine BOOKs)


自身も認めているように本書の白眉は
「2章 職人さんと「味」でつながる〜3大職人の仕事術」である。
迫川は三人の職人にインタビューを試みる。


コーヒー職人、久野富雄。
ソーセージ職人、河野仲友。
パン職人、高橋康弘。
いずれも迫川が探し求め、出会った職人であり、
ベルクの味を創り出す戦友である。



久野、河野、高橋に共通するのは職人の「狂気」である。
現代ビジネス社会の神話である効率性、利益だけにこだわらぬ
矜持と技術である。
客に自分が信じた味を安全に届けるためには、
誰もが支配されている資本主義のルールから
いっとき外れることもいとわない。



無論、利がなければ商売として成立しないし、継続もできない。
けれど、まず、己の仕事はなにゆえ存在を許されるのか、
なにを追究することが自分のためであると同時に世のためになるのか、
三人は人体における背骨のような思考・行動から
決して逃げることがない。



僕たち生活者が
ただただ安価な品物、サービスだけを追い求めていけば、
こうした職人たちの生きる道はさらに狭くなる。
うまくて、気分がよくて、
なおかつ決して高くはない品物、サービスを
自分が選択し購入し評価すること。
それがそうした職人たちの仕事を具体的に支持することになる。



小さく縮んでいくだけの社会には夢がない。
ときには身体をストレッチして
筋を伸ばし血行を良くするように、
日々の小さな行動から
自分の暮らしや思考を縮ませぬ創意工夫をしてみたい。
本書は三人の職人のインタビューを核に
そうした行動への呼びかけとヒントに満ちている。



小さな個人店ベルクが、この時代になぜ元気に満ちていて、
15坪の店に日々1,500人の客を集めるのか。
その秘密の一端を読み解くことができる。


(文中敬称略)