海部俊樹『政治とカネ 海部俊樹回顧録』(2010)


政治の世界も変転激しく、
この人が総理だった頃のことをすっかり忘れていた。
書店で手に取り、パラパラ流し読みをして、購入を決めた。
海部俊樹『政治とカネ 海部俊樹回顧録』(2010)を読む。



政治とカネ―海部俊樹回顧録 (新潮新書)

政治とカネ―海部俊樹回顧録 (新潮新書)


自民党は政権を手放さなかった代わりに
都度権力闘争があり、
ときにクリーンなイメージを取り入れ解毒効果を計った。
海部も、海部の師匠である三木武夫もそのためのリーダーであった。



どちらも総理の座を与えられた代わりに、
政治改革を本格的に推進しようとした矢先に、
玉座から引きずり下ろされた。
真の権力者たちはカネと縁を切ることなど望みはしなかった。
三木も海部も議会主義を大義とするあまり、
総理の持つ解散権を使うこともしなかった。
確かにイメージはクリーンであっても、
一国のリーダーとして力不足であったことは否めない。



本書が面白いのは、己の弱点もさらしながら、
なおかつ政治信念を曲げない海部の一貫した姿勢だ。
三度組み、三度分かれた小沢一郎についても
率直な物言いをしている。
海部は利用しやすいと長老たちは思ったのだろうが、
いざリーダーにしてみると、その愚直さに手を焼いた。



海部の政権は与党内野党だったのだな、といまにして思う。
民主党政権だけが混乱しているのではない。
自民党政権史も混乱の連続であったことを
海部の回顧録によって思い出した。



変転が激しくなると、
人が過去を忘却のかなたに追いやるスピードが上がる。
それは恐ろしいことだ。
愚直の人、海部が1989年から1990年にかけての818日間、
日本国の政権を運営していたことを記憶にとどめておく。
その記憶は、日本人がよりよい政治を選択するための
ひとつの判断材料になるはずなのだ。



(文中敬称略)