その記憶の集積が「アズーラ」に変わる


友人のMさんとはときどき会ってよもやま話をする仲である。
最初に出会ったのが30年ほど前のことになる。
既に業界でスターになっていた先輩Sさんが
二人を引き合わせてくれたのが縁の始まりだ。



今宵はMさんの会社のそばにある
イタリア居酒屋「アズーラ (Azzurra)」に行く。
Mさんの同僚・部下たちが
自社レストランのように使い愛している店だ。


シェフのご主人は4歳年下の奥さんが
まだ高校生のときに一目惚れした。
その後、ご主人が金もコネもなくイタリアで修業しているときに
日本から彼女を呼び寄せた。
以来40年以上、仕事でも家庭でもパートナーである。
店が終わり、お二人もグラスを持って隣りのテーブルにやってきた。
いい話が聞けそうだ。



ご主人は若き日より30回以上イタリアを訪れる。
毎年夏には2週間の休みを取り、二人でイタリア中を旅して食べ歩く。
毎食、空腹で味わうためにゴルフを覚え、
食事と食事の合間には二人で現地のゴルフ場に足を運ぶ。


そうして集積した食の記憶を
帰国してからいったん寝かせ熟成させる。
自分なりの創意工夫でオリジナル料理になったと判断すると
店の黒板のメニューにチョークで書き加えられる。
客はその年のご主人の成果を味わうことになる。



イタリア語で「空の青」を意味するのが、azzurro
それにちなんで店の名は、Azzurra。
壁はイタリアン・ブルーに包まれ、
イタリア居酒屋らしくそこここで会話が弾み、笑いがこぼれる。