池井戸潤『果つる底なき』(1998/2001文庫版)


池井戸潤『果つる底なき』を読む。
著者は三菱銀行(当時)に7年間務めた経験を活かし、
銀行を舞台にしたミステリーを物にした。


果つる底なき (講談社文庫)

果つる底なき (講談社文庫)


金が集まる場所には人間の欲望、野心、希望が集まり、
人間は金をレンズにしてそれぞれの未来を投影する。
僕たちが普段目にする銀行窓口の整然とした様子とはまったく異なる、
ときに陰惨な場面が隠されているのは
アメリカや日本の金融機関破綻を見るだけで容易に想像できる。
その暗部に斬り込む池井戸の着眼点、筆力が素晴らしい。



別れ際にあいさつを交わした同僚・坂本が
そのわずか後に帰らぬ人となり
銀行のお金3,000万円を不正に着手した疑いをかけられる。
しかし、なにかがおかしい……。



本書と言い『空飛ぶタイヤ』と言い、
これだけ銀行の裏面を活写されたらたまらない、
と思う元上司・同僚がいるのではと苦笑する。
代表作『空飛ぶタイヤ』と比べるとまだ筆が硬い感じがするが、
それはデビュー作ならではの著者の原型でもある。
第44回江戸川乱歩賞受賞作。


(文中敬称略)