坪内祐三『東京』(2008/写真: 北島敬三)


坪内祐三『東京』を読む。
近所の図書館でふと手に取り読んでみたくなった。
僕は坪内より4歳年上で、育った環境も選んだ職業も違う。
それでもほぼ同時代に東京で生まれ育ったことで
坪内が書く東京の街の記憶に僕の中で蘇るものがある。


東京

東京


例えば「渋谷道玄坂」の項で、
坪内は「本のデパート」大盛堂閉店に触れる。
僕も少年時代から大盛堂には何度足を運んだか分からない。
閉店する頃には坪内と同じくめったに通わなくなっていた。


   しかし、今年(二〇〇五年)六月いっぱいで閉店してしまった
   大盛堂書店のことは、追悼の意味を込めて書いておきたい。


      (中略)


   私にとって、渋谷の大盛堂書店とは、
   西武デパートの向かいにあった「本のデパート」大盛堂だ。
   その大盛堂がついに閉店してしまったのだ。


                           (p.144)



渋谷、渋谷道玄坂、下北沢、高田馬場、神保町、赤坂。
街の景色も店もそのとき確かにそこにあり手触りもあったのだが
時間が過ぎてしまうと現実とは思えぬ記憶としてどこかに収まる。
そうした記憶の貯蔵庫を坪内は言葉、北島は写真を道具として
それぞれ個として訪ね歩く。
街の記憶にたまった埃をそっと払って僕たちの前に置く。
それが本書である。



現実の東京であるのに、幻の東京。
してみると、僕たちが日々確実なものとして暮らす街も景色も
やがてはすべて幻の街となり景色となるのか。


(文中敬称略)