石川知裕『雑巾がけー小沢一郎という試練』(2012)


石川知裕『雑巾がけー小沢一郎という試練』を読む。
石川は9年間、小沢一郎の秘書を務め、
現在は新党大地・真民主に所属する衆議院議員。二期目。
2010年に政治資金規正法違反で逮捕され公判中である。
本書で石川はあえて裁判については触れない。
石川の視点から小沢一郎という政治家の一面が垣間見えてくる。


雑巾がけ: 小沢一郎という試練 (新潮新書)

雑巾がけ: 小沢一郎という試練 (新潮新書)


石川が小沢の秘書を辞め衆議院選に出馬を決めたとき、


   「おまえに三つ言い渡すことがある」


と小沢が語り出す。


   「お前はこのあといろいろな人と出会う。
    その人について悪く言う人もいればいいことを言う人もいるが、
    最後は自分で評価しなければならない。」



   「あのレトルトカレーの賞味期限だって人が決めたことだ。
    自分で食べてよければそれでいいんだ。」


小沢の蓼科の別荘にあった
賞味期限切れのレトルトカレーを勝手に捨てた、
と石川は叱られたことがあったのだ。



二つ目は節約の大切さ。
三つ目は、


   「もっと経営者の感覚を持て。
    年間いくらかかっていくら入る、といった感覚を
    ちゃんと持たなければ駄目だ。」


              (引用箇所は本書pp.124-125より)


小沢は普段「おう」とくらいしか言葉をかけないから
石川は三つの教えを記憶した。



僕が石川の胆力を評価したのは
自身に対する検察の調べに屈しなかったばかりでない。
取調室にICレコーダーを忍ばせ、
田代検事の報告書が虚偽であることを世間に証明したことだ。


僕は4月26日の小沢裁判の判決に注目していた。
予想通り、無罪だった。
しかし、大膳裁判長の判決文の中に仰天する箇所があり
何度も読み直してしまった。


   しかし、検察官が任意性に疑いのある供述調書や
   事実に反する内容の捜査報告書を作成し、送付したとしても、
   検察審査会における審査手続きに違法があるとはいえず、
   また、起訴議決が無効であるとする法的根拠にも欠ける。


   また、検察審査員の錯誤等を審理、判断の対象とすることは、
   会議の秘密に照らして相当でなく、実行可能性にも疑問がある。



     (只見から送られてきたマタタビ入りの紙袋に
      首を突っ込むハエタロウ。もちろん無罪)


司法のプロフェッショナルでない市民からなる検察審査会
虚偽の報告書を上げ起訴議決と判断させた検事の行為が
罪に問われないとは、どういうことだろう。
不思議なこともあるものだ。
こうした事件の核心に触れようとせず
ただただ小沢を国会の証人喚問に引きずり出そうとする
自民党はじめ野党の主張も理解しづらい。
この上、なにを聞きたいというのか。



本書を読み僕の石川に対する評価は上がった。
自分の裁判費用を稼ぐため前著『悪党』に続いて
「親分」をもう一度ネタにする、と堂々公言する人柄も面白い。
進む道は小沢とはいったん分かれたが
裁判で無罪を勝ち取り、
衆議院議員としての仕事をやり遂げていただきたい。


悪党―小沢一郎に仕えて

悪党―小沢一郎に仕えて


(文中敬称略)


●参考資料


1. 小沢一郎元代表裁判判決骨子
2. 同判決全文