坪内祐三『ストリートワイズ』(1997/2009文庫版)


ストリートワイズ (講談社文庫)

ストリートワイズ (講談社文庫)


坪内祐三『ストリートワイズ』を読む。
坪内のストリートワイズの定義はこうである。


  しかも、街をさ迷っていると、その迷路のような道すじで、
  ある時突然、まさに路上の賢者(ストリートワイズ)
  といえそうな人(物)に出会い、
  彼らの手招きによって、
  気がつくと、自分で目指していた以上の場所にいる。
  自分の直感を信じてアクションを起こさないと
  ストリートワイズは生まれない。
  地図やマニュアルは、アクションを起こすきっかけにはなっても、
  それだけでは路上の賢者(ストリートワイズ)に出会えない。
  街で生きる知恵(ストリートワイズ)を手に入れることは出来ない。


                (p.10「序にかえて」より引用)



坪内が文筆家としての自覚を持ったのは
追悼文「一九七九年の福田恆存」を『文學界』に執筆したときである。
当時の『文學界』寺田編集長からの依頼だった。
寺田に福田と坪内の関係を伝えたのは文藝春秋の細井秀雄。
細井は山口昌男がリーダー、坪内がメインスタッフであった
『月刊Asahi』の仕事に着目していた。


さらにさかのぼり、
『月刊Asahi』に坪内を紹介したのは
山口や坪内とテニス仲間でありフリーの編集者木村修一。
坪内が『東京人』編集部を辞めぶらぶらしていたときだった。
ストリートワイズによって点と点が一本の線につながっていった。



「一九七九年の福田恆存」の最後を坪内はこう締めくくる。


  私がふたたび福田さんの前に姿を見せられる自信がついたのは、
  八年間におよぶ長い学生生活を終えてからだ。
  その時、福田さんは、いまだ足もとがふらついている私に、
  一言、あなたも文章を書きなさい、と言ってくれた。
  その言葉がどれだけ私のはげみになったことか。


                           (p.40)


本書は若き日の坪内の、気迫の籠った評論集である。


(文中敬称略)