庄司薫『ぼくの大好きな青髭』(1977/2012新潮文庫)


庄司薫『ぼくの大好きな青髭』を読む。
読み直すのはいつ以来か、
それとも最後の「青」はちゃんと読んでいなかったか。
1969年7月20日アポロ11号月着陸の一日、
新宿を舞台にした庄司薫くんと彼をめぐる人々の物語だ。
四部作の最終巻である。
巻末で坪内祐三がこの作品の歴史的位置づけを
解説しているのが分かりやすく参考になる。


ぼくの大好きな青髭 (新潮文庫)

ぼくの大好きな青髭 (新潮文庫)


少なくとも庄司薫の四部作の「赤」「黒」「白」は
僕は中学高校時代にリアルタイムで読んでいる。
やや年長の、どこか歯がゆい感じの薫くんに自分を投影させ、
目に見えないものと格闘する気持ちを味わっていたことを
懐かしく思い出した。



社会に出て仕事を持ち、
好きな人とだけでなく好きでない人とも付き合うことは
学生時代の自分から脱皮するために不可欠であった。
第一、自分で稼ぐことを覚えなくては暮らしていけない。
が、それゆえに青春のあえかなものに封印して顧みない
大人の自分がいることも事実だ。



かつて愛読した本をいまの視点、思慮で読み直すことは
過去の自分と現在の自分を、つまり点と点をつなぐ行為である。
そこから未来の自分の点を結ぶ線が見えてこないとは言えない。
自分の中のあえかなものが既に死に絶えたなどと
自分以外の誰が決めつけられるだろう。



庄司薫が今年75歳になると知って驚いた。
物語の中で75歳の薫くんを想像することは僕には難しかった。
けれど振り返って自分の年齢を考えればなんら不思議はない。
今回入院するとき一階のコンビニの文庫本棚で
真っ先に僕の目に飛び込んできたのが
庄司薫の「青」と「黒」だった。
せっかくの機会が訪れたのだから
他の三作品もゆっくり、じっくり、読み直してみよう。


長崎訓子のカバー装画による、
新潮文庫新装版シリーズ全四冊。


(文中敬称略)