川上弘美のエッセイ集『ゆっくりさよならをとなえる』を
少しずつ愉しみながら読んでいたらこんな文章に出会った。
突然スパゲティーナポリタンが食べたくなって、困った。
オリーブオイルだのゴルゴンゾーラチーズだの
ポルチーニだのを駆使した本場イタリア的「パスタ」ではなく、
ハムと缶詰のマッシュルームを油で炒めたところに、
ちょっと茹ですぎたスパゲティーをほぐしながらいれて、
最後にトマトケチャップをちゅーっと絞り出してからめた、
あの古式ゆたかな「スパゲティー」が、
どうしても食べたくなったのである。
(同書p.52「ナポリタンよいずこ」より引用)
- 作者: 川上弘美
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2004/11/28
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新橋駅ビル「ポンヌフ・テラス」の
スパナポ(以下川上考案の略称をまねる)は、まさにその一品である。
ポンヌフ・バーグセットにはスパナポ、ハンバーグ、バターロール、
生野菜少々、自家製プリン、コーヒーが付き1,020円。
スパナポにハンバーグをのせただけのメニューもある。
この店は昼時ほぼいつも行列である。
イタリア人が食べたら「我々はこれはパスタとは呼ばない」
と憤慨する超日本土着型スパナポに会社員は行列している。
カツ丼といいカレーパンといい中華そばといいスパナポといい、
僕たちのDNAに深く深く刻み混まれた食べ物がある。
わざわざB級グルメなどと他人に名付けてもらわなくとも、
そうした食べ物をときに口にして胃袋で率直に日本を味わう幸福がある。
ちなみに店名「ポンヌフ」は新橋の仏語訳である。
(文中敬称略)