井野朋也『新宿駅最後の小さなお店ベルク』(2008/2014文庫)


シニア契約社員として働き始めて一週間。
立場が変わると、初読のときとは味わいが変わる。
井野朋也『新宿駅最後の小さなお店ベルク』を読む。
僕もひいきにしているベルクで小さなポスターを見かけ、
「その後のベルク」を加筆した文庫本が発売されたのを知った。



2000年に改正された定期借家法を
家主ルミネが拡大解釈したために、
ベルクは20年地道に続けてきた場所から
危うく一方的に追い立てられるところだった。


「この隠れ家を失ってなるものか」と、
一ヶ月で5,000の署名が集まった(僕も後に客となり署名した)。
ルミネが退店勧告を撤回したのが2012年秋。
それから二年、立ち退き問題はいったん小休止して、
僕たち常連客、初訪問客もベルクに通い続けている。


食の職 小さなお店ベルクの発想 (P‐Vine BOOKs)

食の職 小さなお店ベルクの発想 (P‐Vine BOOKs)


ベルクの本質は、この店が営む誠実な商売、
客と創り出す雰囲気である。
井野はこの本で「ベルクの材料コスト」まで明らかにしている。
一般の飲食店で30~35%、
外食チェーンで25%の原価率が、ベルクでは42.5%。
メニューの中心であるアルコール、フードに限れば
原価率50%である。


この原価率にキビキビした店員のサービス、
どこかホッとする空間(立ち飲みと椅子席が半々くらい)、
落ち着いた客層が重なれば、自然と足が向くというものだ。



僕は大組織に勤務するシニア契約社員で、
個人店を経営する井野とは立場も年齢も違う。
けれどもベルクのスピリットで
よろづ相談コンビニ「猫の手」を営業していけたらいいなと思う。
井野やベルクのチームは、
個が組織の中で生きていく知恵を探るメンターでもある。


この本を文庫にしたのがまたもちくま文庫
筑摩書房編集・井口かおりの仕事に星を付けたい。


(文中敬称略)