どうまん蟹を食べた日


同居人が年に一回地域ラジオCM審査に出掛ける。
地方局が毎年持ち回りで担当し、今年は浜松だった。
一泊二日の出張で「旨いもん買って帰るよ」との言葉に、
翌土曜日、秘湯会全会員2名、つまり会長の僕と副会長が集まった。



小宴の前はM湯で汗を流す。
土曜日は玉露カテキン茶風呂である。
町内で二軒の銭湯が店を畳んだため(一軒は正式には長期休業中)、
M湯はずいぶん混雑するようになった。
僕らもよそからM湯に流れた口である。



風呂場で仮死状態になっているのは「どうまん蟹」である。
獰猛がなまって「どうまん」になったくらいだから、
体長の割りにハサミがでかい。
うっかり突いたりでもすると指をチョキンと切られる。
出社して人差し指の先っぽがなかったら、
同僚たちも掛ける言葉に詰まるに違いない。



シンプルに蒸していただく。
うむ、味が濃厚である。
この夜は浜名湖産天然鰻も鎮座する夢の一夜だったから、
「どうまん蟹」の身を少し残しておいた。
翌日身をほぐし、鶏卵、グリーンアスパラと一緒に
ニンニクで香り付けした胡麻油で炒めて蟹炒飯を作ってみた。
ほほぅ、炒飯にしても実に旨い。



浜名湖でもめったに取れない幻の蟹で、
トロ箱を水平にして持ち帰るのに同居人は随分苦労した。
その魚屋に行くにも市内からタクシーで往復二時間。
手間も運賃もかかっている。
それだけの価値があったと秘湯会は今宵も大喜びだ。
根が単純にできている。