佐藤優『甦る怪物(リヴィアタン)』(2009)


マルクスとの三度目の出会いはロシアだった。
今度は理論でなく現実として出会った。
佐藤優『私のマルクス・ロシア編 甦る怪物(リヴィアタン)』を読む。


甦る怪物(リヴィアタン)―私のマルクス ロシア篇

甦る怪物(リヴィアタン)―私のマルクス ロシア篇


リヴィアタンは旧約聖書に登場する怪物の名である。
アメリカは資本主義を体現した国家だが、
マルクス社会主義共産主義のバイブルと曲解され
まともに読まれてこなかった。


他方、ロシアではマルクスは既に古文漢文並みの古典に過ぎなかった。
マルクスは資本主義社会そのものを分析・解明した。
そもそも資本主義を体験していないロシアには
マルクスの分析を理解するに足る経験がまるでなかった。


資本論 1 (岩波文庫 白 125-1)

資本論 1 (岩波文庫 白 125-1)


資本主義圏・共産主義圏のいずれでも真摯に読まれていなかった
マルクス理論がソ連崩壊の際に現実となった。
まるでアインシュタインの理論的予言が
後に天文学的事実として発見されるかのように。
それが僕にとって本書のキー・ラーニングだった。


混乱のさなかで勉学がまともにできなくなった教え子たちを
佐藤は自分の研究を助けるアルバイトの仕事を作って助けた。
外務省の特別手当60万円(月)の一部を使った。
現地の秘書たちも普段ロシア人が行けないレストランで時折もてなす。


こうした人間的付き合いを大事にすることも
ロシア駐在時の佐藤のインテリジェンスの仕事を助けた。
僕が疑問に思うのは、
身銭を切ってこうした気遣いができる日本人外交官が
過去に何人いたか、現在何人いるかだ。


私のマルクス (文春文庫)

私のマルクス (文春文庫)


前著と合わせて読むことで
佐藤の30代外交官時代までの職業人生、
職業を支えてきた友人たちとの付き合い、
そしてマルクスとの三度の出会いの物語が完結する。



(文中敬称略)