エマニュエル・トッド『シャルリとは誰か?』(2016)


新書307頁の小さな本だが、
いま世界で起きていることを理解するために重要な本だ。
エマニュエル・トッド『シャルリとは誰か?
—人種差別と没落する西欧』を読む。



2015年1月にパリで起きたテロ、
風刺新聞『シャルリ・エブド』編集部、
警察官、ユダヤ食品店顧客を殺戮した事件からトッドは分析を開始する。
テロリズムに対して立ち上がったフランスの自由平等精神に見える
「私はシャルリ」現象の背後に、より恐るべき現象が進行している。
外国人恐怖症であり、イスラム恐怖症であり、反ユダヤ主義である。
ゾンビとなったカトリシズムが現状維持を望む中産階級、高齢者層を支え、
失業に苦しむ若年層、労働者層との分裂を進めている。


Qui est Charlie? Sociologie d'une crise religieuse

Qui est Charlie? Sociologie d'une crise religieuse


  (2015年5月に出版されたフランス語原書)


そうしたことが自由と平等を象徴する
「私はシャルリ」のスローガンの背後で不気味に動いている。
それがフランスの現実であり、先進諸国でも共通項のある現象だ。
トッドはこの本をフランスで出版することで多くの非難を受けた。
フランスの危機に、自由と平等の危機に、
「私はシャルリ」と唱えるのを拒絶し、
イスラム教を冒涜しないことを非難された。
言わば「非国民」の罪で。
まるで第二次世界大戦中の日本で起きた現象が
21世紀のフランスで起きていることが僕には衝撃だった。


2015年11月13日に130人の死者を出した
「パリISテロ事件」についての分析が
この日本語版だけに収められている。
事件後に起きたフランスを含む西欧の反応は
本書によって予言されていたことが分かる。
フランスで孤立していたトッドが、
日本のジャーナリズムに希望を持っている理由も
本書を読むと理解できるようになる。


(文中敬称略)