ナシーム・ニコラス・タレブ『ブラック・スワン』(原著2007/2009)


歯に衣着せぬ物言いだが読後感がよかった。
自分で考え抜いたことしか書かないと宣言した著書だ。
ナシーム・ニコラス・タレブ望月衛訳)
ブラック・スワン(上・下)』を読む。



タレブはトレーダーとして長年現場で働き、
現在は大学で教えている。
高度な数学を振り回し、狭いアカデミアのコミュニティに暮らし、
ノーベル経済学賞をたらい回しにする著名学者たちをタレブは嗤う。
「月並みの国」の確率論など「果ての国」ではまるで通用しない。
自分たちの予測などまるで敵わぬ「黒い白鳥」を読み解くなど
できる訳がない。


The Black Swan: The Impact of the Highly Improbable

The Black Swan: The Impact of the Highly Improbable


なるほど、ノーベル賞をひけらかし
金融機関の顧問として高給を取り、
バブルの崩壊を予測もできなかったくせに
厚顔無恥にも自分だけは安全な場所を離れぬ
高名経済学者たちが存在する理由が本書を読んでよく分かった気がする。


僕が大好きなのは辛辣な著者の、別の一面がふと覗くラスト。


  電車を逃して残念なのは捕まえようと急いだときだけだ!
  同じように、ほかの人があなたに期待する成功に
  追いつこうとするのがつらいのは、
  まさしく、そんなことをしようとするからである。


  自分の意志でイタチごっこや序列を捨てるのなら、
  それはイタチごっこや序列を外れるのではなく超えるということだ。
  給料の高い仕事を自分から辞めれば、
  お金で得られるより高い満足が手に入る
  (頭がおかしくなったかと思うかもしれないが、やった私が言う。本当だ)。


                    (下巻p.217より引用)



   (写真上/再掲:齋藤秀三郎にプレッシャーを掛けられる黒い白鳥)


「給料の高い仕事を自分から辞めれば」は
僕には当てはまらないが(笑)、
タレブが言わんとすることは理解できる。
本書の存在は知っていたが未読だった。
手に取り通読できたのは
タレブに注目させてくれた上海の同僚Rのおかげだ。
ありがとう。


wikipedia:en:Nassim Nicholas Taleb


(文中敬称略)