水俣がエチオピアの現在につながる(松村圭一郎)


スクラップブックから
朝日新聞2018年8月28日朝刊
松村圭一郎のフィールド手帳
エチオピア水俣 つなぐ線


   今春、岡山の本屋で
   石牟礼道子の『苦界浄土』を読む会をはじめた。
   いまこの作品に向き合うべきだという直感があった。
   先日、帰省の折にはじめて水俣を訪ねた。
   これまであえて避けてきたように思う。


   水俣で起きたことは
   エチオピアの現在とつながる。
   発電用のダム建設で
   下流の氾濫原(はんらんげん)を耕していた民族が
   生活の糧を失った。
   輸出用の商業農園のために家畜の放牧地が奪われた。


   国家や企業の大きな目標のために
   小さき者たちの暮らしが犠牲になる。
   それは日本でも繰り返されてきたことだ。
   (略)


   静かな朝凪(なぎ)の海に
   カヌーで漕(こ)ぎ出す。
   エチオピア水俣をつなぐ線から何がみえるか、
   まだわからない。
   祈りを込めて、湿り気のある潮風を
   胸いっぱい吸い込んだ。
    (文化人類学者=おわり(引用者注:松村担当コラムの最終回))



エチオピアでのフィールドワークを続ける松村は
熊本に生まれ育った。
これまであえて避けてきた水俣、石牟礼『苦界浄土』に
立ち向かう直感はどこからやってきたのか。
松村の本コラムからは
現場の空気を感じる視点をもらってきた。


苦海浄土 (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 第3集)

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うしろめたさの人類学

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