生きてるか死んでいるか、それだけ簡単にお知らせください

毎月、佐藤昭弘先生出題・解説の "The Writers' Workshop"
NHKテキスト「ラジオビジネス英語」所載)に挑戦している。
日本語で書かれたさまざまなジャンルの文章を
英語で表現するワークショップだ。
8月・9月の共通テーマは「脚本家」。



9月号は「美術手帖」2018年2月号(発行:美術出版社)に掲載された
作家/俳優の山下澄人の文章から出題された。
山下が2期生として卒業した富良野塾
その塾を創設・運営した脚本家・倉本聰について書かれている。
文脈の背景を調べがてら、倉本の代表作のひとつ、
『前略おふくろ様』PART I (1)(理論社、1983)を読む。



冒頭「の章」はこんな書き出しだ。


  手紙

    すさまじい金釘流の文字の手紙が、
    書きさしのまま中断されている。
    サブの声がボソボソと低く入る。

  語(サブの声)

  「前略 おふくろ様。長いことご無沙汰しています。
  オレは元気で、めいっぱいまじめに」
  かすかないびきがしのびこむ。

  サブの部屋(アパート・夜)

    手紙を書きさしのまま眠っているサブこと、
    片島三郎、二十四歳。
    その胸の上にある封筒と手紙。
    窓からの微風がその手紙をゆらす。

  母の声

    「前略 さぶろうさま。
    これでもうまる一年、あなたの手紙をもらっていません。
    母は、ちっとも心配はしていませんが、
    生きてるか死んでいるか、それだけ簡単にお知らせください。

    生きてる場合はいざ知らず、
    死んでる場合にはお葬式の仕度などいろいろ都合がありますから。
    ご存じのようにこっちには、
    結婚式とかお葬式の大好きな親戚がいっぱいおります。
    あなたが死んだといってやったら、
    きっともうみんなただ酒が飲めると
    大よろこびで集まってくるでしょう。
    私も苦労の種がへってこんなうれしいことはありません。

    母に期待ばかりさせていないで、
    死んだなら死んだと一刻も早く知らせてちょうだい。
    母は遠く山形からドキドキ期待して待っています」

    眠ったままホッと溜息つくサブ。
    遠く、透みきった木遣りの声入り、
    そして、音楽ーーテーマ曲、イン。
    タイトル流れて。


サブを演じるのはショーケンこと萩原健一
おふくろ様の片島益代は田中絹代
キャストには下元勉、北林谷栄桜井センリ小松政夫坂口良子加藤嘉
室田日出夫、川谷拓三、桃井かおり大滝秀治、梅宮辰夫、小鹿番の名が並ぶ。
音楽は井上尭之、速水清司。