岡本行夫『危機の外交ー岡本行夫自伝』(新潮社、2022)

僕は岡本行夫さんの仕事を知らなかった。
読み進むうち、本書は日本の安全保障を考える際、
基本書の一冊になる重要な本だと思えるようになった。
岡本行夫『危機の外交ー岡本行夫自伝』(新潮社、2022)を読む。



腰巻から引用する。


  日米同盟の最深部まで知る男が書き残した渾身の手記 
  虚々実々の情報戦、薄氷の交渉テーブル、そして裏切りーー
  当事者だけが知る真実がいま、初めて明かされる。


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  1990年6月10日、アメリカを担当する外務省の課長だった僕は、
  東京湾に停泊中の豪華クルーザーのパーティに招待された。
  アメリカでは個人がこんな船を所有しているのかと腰を抜かした。
  なんでこんな国に日本は謝らなきゃいけないのか? 
  オーナーはハンサムで長身の40代の男だった。
  にこやかな笑みで日本人ゲストを迎えてくれた。
  名前はドナルド・トランプといったーー。


澤藤美子(岡本アソシエイツ ゼネラルマネジャー
「あとがきにかえて 岡本代表のライフワーク」から
著者自身の言葉を抜き書きする。


  アメリカの学生たちが日本研究をする際の
  副読本になるような本を英語で書きたい。
  正しい日米同盟、日米関係を理解してもらいたい。
  その中には、日本が湾岸戦争でどれだけの貢献をしたかを詳細に記し、
  日本へのアメリカの不当な扱いを彼らに知ってもらいたい。
  そういった本を英語で書くのが目標で、
  これは俺のライフワークだ。


  ●●●


  この本の執筆には明確な目的があった。
  自分の過去を振り返ることでもなく、
  ましてや自分がやってきたことを
  人々に理解してもらいたいということでもない。


  僕はいろいろな立場でアメリカと、特に安全保障に関わってきた。
  その姿が正しくアメリカに伝わっていないことに
  苛立ちを感じることが多かった。
  しかし、英語で書き進めるうちに、
  いろいろな新しい情報は日本の読者にも伝えておくべきだと思った。


  そして、日本側でわかってもらいたいこと、
  つまりこのような遅々とした進み方では日本は世界についていけない。
  日本がやってきたことは60点ぐらいだろうか。
  我々はそこから90点を目指さなければいけない。
  しかし同時に国際社会が日本に与えている
  せいぜい30点という評価は不当であり、
  少なくとも本来の60点の評価はすべきだ。


  ●●●


  私の情熱の先のビジョンは
  日本の凋落を食い止めたいという思いかもしれません。


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  本の多くの部分は(もちろん私が生まれる前の出来事を除いて)
  私が実際に体験してきたことである。
  Practionerとしての私の体験をまず読者に知ってもらい、
  そこから読者にそれぞれの考えを発展させてもらいたいと思っている。


澤藤の文章は次のように終わっている。


  岡本代表、本当に本当にありがとうございました。
  そして、お疲れ様でした。


  代表が生前にご相談されていた
  新潮社の伊藤幸人取締役が出版の話を進めてくださったおかげで、
  代表の思いを汲んで丁寧に編集してくださった
  堀口晴正氏、岡倉千奈美氏のお力で、
  こうして「代表のライフワーク」の本を皆さんにお披露目できました。
  喜んでくださってますよね?


                         (pp.463-470)


本書の構成は以下の通り。
未完となった英語版 "The Journey of the Defeated Nation" を本書と併読したかった。


  刊行に寄せて 岡本さんの思い出 北岡伸一
  第一章 父母たちの戦争
  第二章 日本人とアメリカ人
  第三章 敗者と勝者の同盟
  第四章 湾岸危機ー日本の失敗、アメリカの傲慢
  第五章 悲劇の島ー沖縄
  第六章 イラク戦争アメリカの失敗、日本の官僚主義
  第七章 難しき隣人たちー日本外交の最大課題
  第八章 漸進国家・日本
  さいごに 日本の目指す道
  あとがきにかえて 岡本代表のライフワーク 澤藤美子
  主な参考文献


最後に掲載された参考文献は全6頁に及ぶ詳細なリストで
本書を読んだ後の連読、深読に役立つ。
著者に関連した書籍のリンクを以下に貼っておく。