佐藤優評:岡本行夫『危機の外交 岡本行夫自伝』(新潮社、2022)

クリッピングから
新潮社PR誌「波」2022年5月号
岡本行夫氏が死の瞬間まで努力していたこと
岡本行夫『危機の外交 岡本行夫自伝』
佐藤優



  「あとがきにかえて」で
  澤藤美子氏(岡本アソシエイツ ゼネラルマネジャー)が記しているように、
  本書は、60代後半になって、自分の残り時間が少ないとの自覚を持った岡本氏が、
  日本と米国の若い世代のために書いた自叙伝という形態の外交記録であり、
  戦略書であり、遺書なのだ。


  特に重要なのは、日本の核武装が不可能であること(160〜161頁)と
  日米同盟以外の選択肢が日本にはない(437〜438頁)との指摘だ。
  ロシアのウクライナ侵攻後、国際秩序は大きく変化する。
  日本国内からも日米同盟に対する懐疑的見方と、核武装論が出てくると思う。
  そのとき本書に立ち返り熟慮することが日本の国益にとって重要になる。


  本書で私が最も驚いたのは、
  農林官僚だった岡本氏の父親が
  細菌兵器を研究する陸軍731部隊で勤務していたという事実を明かしたことだ
  (32〜37頁)。
  (略)




2007年、それまで行き違いがあった
岡本・佐藤両氏の誤解を解くために立ち会い人を申し出たのが
住田良能(すみだ ながよし)産経新聞社長(当時)であった。
その事実を、佐藤さんのこの寄稿で知った。