宵のドアノブまわす感覚(四方 護)

クリッピングから
讀賣新聞2024年9月24日朝刊
読売歌壇(俵万智選)
今週の好きな歌3首、抜き書きします。


  おちょぼ口突き出す無花果もぎにけり
  宵のドアノブまわす感覚

        大和郡山市 四方 護


    【評】くるっとまわして
      無花果(いちじく)を捥(も)ぎ取る感覚が、
      下の句の比喩で的確に伝わってくる。
      同時に、
      宵という時間の扉が開くような効果もあり魅力的だ。


  投稿の花の写真にいいねする距離感に
  いまもつながりてをり

         八王子市 土屋ひろ菜


    【評】多くの「いいね」の中の一つではあるけれど、
      相手へは通知される。
      ネットならではの淡いつながりだ。
      小さな安心感や日々の励みや、
      そこはかとない切なさが漂う。


  感動のハグの場面の映像にうつる
  スマホで撮る関係者

        東京都 富見井高志


    【評】関係者の映りこみは、現代の動画あるあるだ。
      感動的だからこそ、みんな撮りたい。
      悪気はないが、やや興ざめなのは否めない。


今週のもう2首。


  鉛筆でマークシートを塗るように
  人が求める答えを返す

       川口市 佐藤よう子


  我なりのひとひを終えた鐘として
  静かに鳴らすグラスの氷

       太田市 鈴木まり子