トースター開けたときのような熱気受け(鷹取真子)

クリッピングから
讀賣新聞2023年8月21日朝刊
読売歌壇(俵万智選)
今週の好きな歌3首、抜き書きします。


  トースター開けたときのような熱気受け
  玄関ドアを一旦閉じる

           大阪市 鷹取真子


    【評】猛暑を詠んだ歌が多く寄せられたが、
       比喩と実感が際立っていた一首。
       ドア一枚隔てた外気に、思わずひるむ感じが伝わってくる。
       外出だが、むしろトースターの中に入るような覚悟が必要だ。


  すすぎから脱水に移る洗濯機 
  歌に苦しむ吾に似ており

       東京都 富見井高志


    【評】ガッタンゴットンと脱水に移るところは、
       たしかに生みの苦しみを思わせる。
       切実な戯画化に共感した。


  凍らせたジュースを飲んでいるような
  はじめが一番甘かった恋

          富士見市 松本尚樹


    【評】時間が経(た)つにつれ、凍っていた水分が解けてくる。
       苦みや酸味が出るのではなく、ただ薄味になってゆく恋。
       比喩がぴったりだ。


今週の、もう1首。


  母の字に似せた誰かの字で届く
  送金をした時だけのお礼状

          入間市 砂狐